『湖の女たち』ネタバレ考察「犯人は…731部隊や佳代が湖に飛び込んだ理由」実話と元ネタ

  • 2024年10月9日

SMと取り調べの関係

本作の最大の疑問が、刑事の濱中と佳代のSM関係だろう。

これは濱中が松本を取り調べで脅迫したストレスが転化してしまった表現だと考える。

精神のバランスを取るためにSMの関係でストレスを解消することが必要だったのだ。

取り調べとSMには「脅迫」という共通項がある。濱中は松本の取り調べでは自分に嘘をつき続け、逆に佳代とのプレイでは欲望を正直に吐露してバランスを取ったのだろう。

佳代が湖に飛び込んだ理由

佳代が湖に飛び込んでから濱中に救われたとき、「これで一生支配されると思ったのに」と叫んだ。

これには濱中に支配されて人生を終える意味もあったかもしれないが、美しいもの=湖に支配されて一生を終えたかった意図もあったように思える。

自分の性的な衝動のいびつさや、人間社会という不自然さから逃れたかったのだろう。

元ネタは薬害エイズ事件

MMO薬害事件は1980年代の薬害エイズ事件が元になっていると思われる。

HIVに感染した血液を原料にした血液凝固因子製剤が流通してしまい、1800人の血友病患者がHIVに感染し、700人以上が死亡されたとされる凄惨な事件だ。

『湖の女たち』ネタバレ・ラスト結末解説

豊田佳代(松本えりか)は連続勤務明けの朝5時ごろに西湖に車を止めて自慰行為をしているところを釣りに来ていた刑事の濱中(福士蒼汰)に目撃される。

もみじ園に入所していた100歳の老人・市島民男が死亡する事件が発生。刑事の濱中と先輩の伊佐美(浅野忠信)が駆けつける。

人工呼吸器に異常があったら必ずアラームが鳴るはずで、誰かがアラームを聞いてすぐに止めたか、アラームが鳴らないように意図的に止めたかのどちらかの殺人の線で捜査を進める。

その時間に担当していた介護士の松本郁子(財前直見)は「アラームを聞いていない」と証言する。

しかし伊佐美は松本が犯人で間違いない!と言って濱中の頭をたたき、濱中に脅迫まがいの取り調べをさせ、松本に自白を強要させようとする。

濱中は松本が犯人だとは思っていなかったが、伊佐美に逆らえなかった。そのストレスもあって、もみじ園のスタッフである佳代を肉体的に支配することに執着する。

佳代の家に行ったり、西湖に呼び出して自慰行為を見せたりした。佳代は警察にやってきて犯行時に撮られたと思われるもみじ園内部の動画を見せる。濱中は取調室で佳代にキスをした。

松本は精神的に追い詰められて車でトラックに突っ込む事故にあった。西湖署は脅迫的な捜査で世間からバッシングを受ける。出産したばかりの濱中の妻・華子(北香那)は夫がこの件に関わっていると夢にも思わなかった。

西湖署が対応を迫られるが、伊佐美は「松本が老人を殺した自責の念に駆られて死のうとした」と勝手に解釈。足を怪我しながらも退院した松本をまた署に呼び、私がやりました…と書かれた自白文書にサインをさせようとする。

濱中は佳代に変○的なプレイを要求するようになった。佳代も濱中の命令を求めるようになる。ある日、佳代は意識朦朧として警察署にやってきて「自分が殺した」という嘘を濱中に言った。

夜、濱中は西湖で佳代をボートに乗せ、手錠をして「湖に飛び込め」と命令。佳代は泳げないにも関わらず飛び込んだ。濱中が助ける。佳代は泣きながら、「これで一生支配されると思ったのに」と叫ぶ

濱中は、もう関係は終わりだと告げた


記者の池田由季(福地桃子)は元刑事の河合から、横暴な捜査をする伊佐美が17年前にMMO薬害事件で証拠がほとんどそろっているにも関わらず政治家にもみ消され、当時に悔しさから死のうとしたと聞かされる。

池田はMMO薬害事件で危険性を知りながら治験の停止を命じなかったのが次期医師会会長と言われる宮森勲であり、立件に際しては当時の厚生労働大臣・西木田の圧力がかかったと調べる。

市島民男は戦時中に中国で非道な人体実験を行った731部隊に所属しており、宮森勲もこの部隊の関係者でその思想の延長上で人体実験をし、MMO薬害事件が引き起こされたと考える。

池田は死亡した市島民男の妻・松江に会いに行って話を聞きに行く。すると終戦の1年前に彼女も中国のハルビンにいたらしく、美しい平房湖(ピンファンコ)で少年兵の宮森勲たちがロシア人少女と日本の少年を連れて雪が積もった岸辺を横切っているのを目撃する。宮森勲はロシア人少女たちの服を脱がせ何やら実験したようだった

松江はその後、そのロシア人少女たちが死んでいたと聞かされるが、宮森勲が犯人だと告発することはしなかった


もみじ園の近くの老人ホーム・徳竹会でも92歳の老婆の殺人事件が起こる。

池田は伊佐美からネットの動画の存在を知らされる。市島民男が死んだ日時にもみじ園の中に入っていく映像だ。駐車場に映っているジープを照会し、所有者でもみじ園の職員でもある服部久美子に会いにいく。家に行くと中学生の三葉と会い、動画に映っていた白衣もあることから彼女が一連の事件の犯人ではないかと疑った

久美子によると三葉は生物部で男子生徒たちとよく西湖に夜通しでバードウォッチングをしていて、市島が殺された朝も西湖にいたらしい。池田は三葉がバードウォッチングをしていると見せかけて湖を回り込んで老人ホームに潜入したと考える。

そんななか、池田はMMO薬害事件についてはもう調査するなと上から指示される。池田は怒りで涙ぐみ、おなじ経験をした伊佐美に会いに行くが、伊佐美の心はもう壊れ果てたのか共感してくれなかった。

市島殺害で容疑者にされた松本が弁護士をつけて濱中と伊佐美を訴えた。二人は失職し、有罪になる見込みだ

佳代は普段の生活に戻っていた。

池田は明け方の西湖にいた。近くに濱中の姿もあった。少し離れた場所のテントから三葉が他の男子生徒たちと出てきてぽつりと「ひまわりの郷」と言う。そして三葉たちは湖のまわりを歩いていく

映画『湖の女たち』終わり

『湖の女たち』ネタバレ感想・評価

『湖の女たち』の評価は85点。

終始漂う浮遊感のある気持ち悪さが良かった。理屈で考えてしまうと意味不明な物語だが、戦時中の少年兵の非道さと、現在の女子中学生の非道さとをリンクさせるようなコンセプトがある面ですごく映画的で見応えがあった。

普通に考えると佳代がなぜ濱中を受け入れたかなど意味不明なポイントが多いが、湖という自然に対して人間の不自然さを描いているのだと思った。

テーマが壮大すぎて意味もわかりにくく、さらに最後も解決感がないまま終わるのでモヤッとはするかもしれないが、そういう映画だと捉えればクオリティは非常に高いと感じた。

映画『湖の女たち』作品情報

公開:2024年5月17日
制作国:日本
上映時間:2時間21分
英題:『The Women in the Lakes』
ジャンル:サスペンス・ヒューマンドラマ
監督・脚本:大森立嗣
原作: 吉田修一の小説「湖の女たち」2020年。
音楽:世武裕子

ここまで読んでいただきありがとうございます。『湖の女たち』レビュー終わり!

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