『湖の女たち』ネタバレ考察「真犯人は…731部隊や湖に飛び込んだ理由」実話と元ネタ

  • 2024年9月24日

映画『湖の女たち』

シネマグ
すごく概念的で美しい映画だった。意味不明なので賛否両論はうなづける。

考察:真犯人と共犯者

物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説

視聴してのぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)

これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビュー!

ネタバレ少なめの感想はコチラ←

※以下、『湖の女たち』のストーリーネタバレありなので注意してください!

『湖の女たち』考察

真犯人は?

『湖の女たち』相関図

真犯人は中学生の服部三葉(はっとりみわ)だと考えられる。

映画内では市島民男が死ぬ前に映されたと見られる動画に三葉がバードウォッチングの際に着ている白衣が映っていただけで確定的な証拠はない。しかし最後のシーンでバードウォッチングのためのテントから出て三葉が「ひまわりの郷」とつぶやき他の男子生徒が付き従って歩くシーンがある。

ひまわりの郷は他の老人ホームのことだろう。ということは、市島民男の呼吸器を止めたのも三葉たちなのだと考える。

気になるのは出回った動画に三葉の祖母・服部久美子のジープが映っていたこと。施設の駐車場の映像なので久美子がその時間に勤務していたことはわかる。

久美子が三葉の共犯なのか?おそらく違う。

三葉と一緒にいる男子生徒の1人が、三葉を犯人だと誰かに知らせたくてこの動画を撮り、手がかりとして三葉の祖母のジープを映したのだと思う。

伊佐美が監視カメラを調べても三葉が映っていなかったのは、湖の側から侵入したことや、三葉が祖母・久美子に会いに行くフリをして日頃からカメラの位置を調べていたせいだろう。

止められなかった者の眼差し:731部隊との関係

結局事件の真相はMMO薬害事件の関係者が市島民男を殺したという陰謀論的なものではなかった。次期医師会長の宮森勲が市島を消したと思わせて、犯人は服部三葉たちだったとわかる。

記者の池田が市島松江から聞いた湖の光景はシンクロしていた。

70年前に少年兵だった宮森勲はロシア人少女と日本の少年を殺した。宮森勲は市島松江にそれを見られたことを知っているが、平然としていた。

三葉と池田記者の関係も、宮森勲は市島松江の関係と同じだ。池田はMMO事件の揉み消しを命令されたことで絶望しているので、テントから出ていく三葉が老人を殺しにいくのだと考えはいるだろうが、止める様子はない。

池田と松江の姿は、事件の真相を知りながら告発できなかった者として時を超えて重なることになった

市島民男は731部隊の責任者で、人権無視の非道な実験をしてきたとわかる。70年以上たち、今度は中学生たちがまるで何かの実験かのように老人の人権無視の思想で市島を殺してしまうのだから因果応報にもみえる

佳代が湖に飛び込んだ理由

佳代が湖に飛び込んでから濱中に救われたとき、「これで一生支配されると思ったのに」と叫んだ。

これには濱中に支配されて人生を終える意味もあったかもしれないが、美しいもの=湖に支配されて一生を終えたかった意味もあったように思える。人間社会という不自然さから逃れたかったのだろう。

元ネタは薬害エイズ事件

1980年代の薬害エイズ事件が元になっていると思われる。

HIVに感染した血液を原料にした血液凝固因子製剤が流通してしまい、1800人の血友病患者がHIVに感染し、700人以上が死亡されたとされる凄惨な事件だ。

『湖の女たち』ネタバレ・ラスト結末解説

脅迫まがいの捜査、佳代と濱中の異常な関係

豊田佳代(松本えりか)は連続勤務明けの朝5時ごろに西湖に車を止めて自慰行為をしているところを釣りに来ていた刑事の濱中(福士蒼汰)に目撃される。

もみじ園に入所していた100歳の老人・市島民男が死亡した事件で、刑事の濱中と先輩の伊佐美(浅野忠信)は、人工呼吸器に異常があったら必ずアラームが鳴るはずで、誰かがアラームを聞いてワザとすぐに止めたか、人工呼吸器をアラームが鳴らないように意図的に止めたかのどちらかの線で捜査を進める。

その時間に担当していた介護士の松本郁子(財前直見)はアラームを聞いていないというが、伊佐美は松本が犯人で間違いないといって濱中の頭をたたき、濱中に脅迫まがいの取り調べをさせ、自白を強要させようとする。

濱中は松本が犯人だとは思っていなかったが、伊佐美に逆らえなかった。そのストレスもあって、もみじ園のスタッフである佳代を肉体的に支配しようと目論む。佳代の家に行ったり、西湖に呼び出して自慰行為を見せたりした。佳代は警察にやってきて犯行時に撮られたと思われるもみじ園の動画を見せる。濱中は取調室で佳代にキスをした。

松本は精神的に追い詰められて車でトラックに突っ込む事故にあった。西湖署は脅迫的な捜査で世間からバッシングを受ける。濱中の妻・華子(北香那)は最近出産したばかりだった。華子は夫がこの件に関わっていると夢にも思わなかった。

西湖署が対応を迫られるなか、伊佐美は動じずに松本が老人を殺した自責の念に駆られて死のうとしたと勝手に解釈。足を怪我しながらも退院した松本をまた署に呼び、私がやりました…という自白文書にサインをさせようとする。

濱中は佳代に変○的なプレイを要求するようになった。佳代も何故かそれに応じる。ある日など、佳代は朦朧と警察署にやってきて自分が殺したという嘘を濱中に言った。

夜、濱中は西湖で佳代をボートに乗せ、手錠をして湖に飛び込めと命令。佳代は泳げないにも関わらず飛び込んだ。濱中が助ける。佳代は泣きながら、これで一生支配されると思ったのにと語る。濱中は、もう関係は終わりだと告げた。

MMO薬害事件

記者の池田由季(福地桃子)は元刑事の河合から、横暴な捜査をする伊佐美が17年前にMMO薬害事件で証拠がほとんどそろっているにも関わらず政治家にもみ消され、悔しさから死のうとしたと聞かされる。

池田はMMO薬害事件で危険性を知りながら治験の停止を命じなかったのが次期医師会会長と言われる宮森勲であり、立件に際しては当時の厚生労働大臣・西木田の圧力がかかったと調べる。

市島民男が戦時中に中国で非道な人体実験を行った731部隊に所属しており、宮森勲もこの部隊の関係者でその思想の延長上で人体実験をし、MMO薬害事件が引き起こされたと考える。

池田は死亡した市島民男の妻・松江に会いに行って話を聞きに行く。すると終戦の1年前に彼女も中国のハルビンにいたらしく美しい平房湖(ピンファンコ)で少年兵の宮森勲たちがロシア人少女と日本の少年を連れて雪が積もった岸辺を横切っているのを目撃する。宮森勲はロシア人少女たちの服を脱がせ何やら実験したようだった。

松江はその後、そのロシア人少女たちが死んでいたと聞かされるが、宮森勲が犯人だと告発することはなかった。

ラスト結末

もみじ園の近くの老人ホーム・徳竹会でも92歳の老婆の殺人事件が起こる。

池田は伊佐美からネットの動画の存在を知らされる。市島民男が死んだ日時にもみじ園の中に入っていく映像だ。駐車場に映っているジープを照会し、所有者でもみじ園の職員でもある服部久美子に会いにいく。家に行くと中学生の三葉と会い、動画に映っていた白衣もあることから彼女が一連の事件の犯人ではないかと疑った。

久美子によると三葉は生物部で男子生徒たちとよく西湖に夜通しでバードウォッチングをしていて、市島が殺された日もそうだったらしい。池田はバードウォッチングをしていると見せかけて湖を回り込んで老人ホームに潜入したと考える。

そんな矢先、池田はMMO薬害事件についてはもう調査するなと上から指示される。池田は怒りで涙ぐみ、おなじ経験をした伊佐美に会いに行くが、伊佐美の心はもう壊れ果てたのか共感してくれなかった。

市島殺害で容疑者にされた松本が弁護士をつけて濱中と伊佐美を訴えた。二人は失職し、有罪になる見込みだ。

佳代は普段の生活に戻っていた。

池田は明け方の西湖にいた。近くに濱中の姿もあった。少し離れた場所のテントから三葉が他の男子生徒たちと出てきてぽつりと「ひまわりの郷」と言う。

映画『湖の女たち』終わり

『湖の女たち』ネタバレ感想・評価

『湖の女たち』の評価は85点。

終始漂う浮遊感のある気持ち悪さが良かった。理屈で考えてしまうと意味不明な物語だが、戦時中の少年兵の非道さと、現在の女子中学生の非道さとをリンクさせるようなコンセプトがある面ですごく映画的で見応えがあった。

普通に考えると佳代がなぜ濱中を受け入れたかなど意味不明なポイントが多いが、湖という自然に対して人間の不自然さを描いているのだと思った。

テーマが壮大すぎて意味もわかりにくく、さらに最後も解決感がないまま終わるのでモヤッとはするかもしれないが、そういう映画だと捉えればクオリティは非常に高いと感じた。

映画『湖の女たち』作品情報

公開:2024年5月17日
制作国:日本
上映時間:2時間21分
英題:『The Women in the Lakes』
ジャンル:サスペンス・ヒューマンドラマ
監督・脚本:大森立嗣
原作: 吉田修一の小説「湖の女たち」2020年。
音楽:世武裕子

ここまで読んでいただきありがとうございます。『湖の女たち』レビュー終わり!

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