映画『ストレイトストーリー』ネタバレ感想・考察!実話?死への旅路?あらすじ解説

  • 2024年3月24日

デヴィッド・リンチ監督作の映画『ストレイトストーリー』(英題:The Straight Story)を視聴。

数百キロ離れた兄の家に、時速8kmの芝刈り機で向かう老人のロードムービー。叙情的なシーンの数々が堪能できる名作だった。

この記事では、

  • あらすじネタバレ
  • どんな映画か、テーマは何か?
  • マルホランド・ドライブとの関係性

解説・考察!

デヴィッド・リンチ監督なので変な映画かと思ったらめちゃ感動できる名作だった。情景の切り取り方や表現は独特な面もあるものの、誰もが感動できる作品。

映画『ストレイトストーリー』ネタバレ考察

幼い頃の心に戻る、死への旅路

ストレイトストーリーの道路ある村での少女殺人事件の謎を追うツイン・ピークス妻が惨殺されまったく別の人間に変身する男性ロスト・ハイウェイ、記憶喪失の女性の秘密を巡る『マルホランド・ドライブ』など、生と死の境界線をテーマにしてきたデヴィッド・リンチ監督の作風から考えると、『ストレイトストーリー』も、老人アルヴィン・ストレイトの死への旅路を表現していたとしても不思議はない。

旅の展開についても、最初に少女と出会い、次に自転車青年グループ、鹿を轢き殺した女性、中年夫婦、バーで一緒に飲んだ老人の順序だったので、人生の流れを客観的に眺めたと取れる。

自身の走馬灯を、他の人間を使って、戻るように辿っていったのだ。

そして最後は昔のように兄弟で満天の星空を眺める。きっと二人の心は幼い頃に戻っていたのだろう。

死んでいたのか?でもそこは重要じゃない

アルヴィンも死んでいて、兄・ライル(ハリー・ディーン・スタントン)も死んでいたと考えることもできる。

字幕ではライルは倒れたとしか書いてなかったが、音声を聞くと「Stroke(脳卒中)」と言っているので、アルヴィンが到着した1ヶ月半後にあんな回復しているのも、家の外観が人がいる感じでなかったのも不自然といえばそうだ。

ただ、リンチ監督の作風から考えると、生きているか死んでいるかの二元論は本質的なテーマから逸れると思う。

テーマ:ピュアなハートに戻るには困難な道を選べ

トラクターに乗る主人公

じゃあ、映画『ストレイトストーリー』のテーマやメッセージは何なの?となるが、結論をいうと、ピュアなハートに戻るには、困難な道を選べ。これが本作のテーマだと考える。

兄弟で星を眺めた頃の心に戻るには、自分のプライドや兄への憎しみを捨て、ゆっくり時間をかけて進めという感じだろう。

例えば、アルヴィンがトラクターでなく誰かに車で乗せてもらって兄の家に着いていたら、ライルは感動せず兄弟は仲直りできていなかったかもしれない。

ただし、デヴィッド・リンチ監督の映像作品は見る人それぞれが自分なりのメッセージを発見できる構造なので、テーマを決めつけるのはこれまた本質から逸れる。

最後はぜひあなた自身が答えを見つけてほしい。

実話をもとにした映画『ストレイトストーリー』

『ストレイトストーリー』は実話がもとになっていて、実際にアルヴィン・ストレイトという男性がトラクターで旅をしたらしい。

本作はリンチ作品では珍しく、脚本は別の人が担当。ジョン・ローチとメアリー・スウィーニーという人物で、メアリーは実際にアルヴィンが旅した行程を辿って脚本を書いたという。道理でリアリティがあるはずだ。

映画『ストレイトストーリー』ネタバレあらすじ解説

あらすじ1:アルヴィンの旅立ち

ある日、73歳のアルヴィン・ストレイト(演リチャード・ファーンズワース)は、腰を悪くして倒れてしまった。夜に親戚から電話がかかってきて、疎遠になってしまった兄・ライル(ハリー・ディーン・スタントン)が脳卒中で倒れたという。

ストレイト・ストーリー アルヴィンと芝刈り機

アルヴィンは思いつめたように、木で作った箱型の寝台をトラクター(芝刈り機)にくくりつけ、アイオワ州から560km離れた兄のいるウィスコンシン州まで旅をすることにした。

アルヴィンとローズ(シシー・スペイセク)

どもり口調の娘・ローズ(演シシー・スペイセク)は心配して止めるが、アルヴィンは出発。しかし途中でトラクターが故障し、アイオワまで牽引されて家に戻るハメになる。アルヴィンは怒り、ショットガンを撃ってそのトラクターを破壊。

知り合いのディーラー・トム(エヴェレット・マッギル)から66年式のトラクターを譲り受け、アルヴィンは再び旅へ出発した。

トム(エヴェレット・マッギル)

あらすじネタバレ2:道中の出会い

ヒッチハイクしていた少女が、車がつかまらなかったようで夜にアルヴィンの焚き火にやってくる。アルヴィンはソーセージを渡し、家族の大切さを語った。

別の日は、自転車レースをしている青年グループに合流。年を取るとどうなるかを語った。

ストレイトストーリーの中盤のシーン

またの日は、大きな下り坂でトラクターが停止できなくなり、坂の下でやっと止まって近隣の夫婦に助けられる。アルヴィンは彼らの家の裏庭にしばらく泊めさせてもらい、トラクターを修理。自分と同じく第二次大戦を経験して深い傷を負った老人とバーで飲み交わす。

あらすじネタバレ3:兄ライルとの再会

ストレイトストーリー主人公アルヴィン

ついにウィスコンシン州に入り、バーで兄ライルの家の場所を聞き出した。しかし林を走っている途中でトラクターが故障。しばらくすると大型の別のトラクターに乗った男性がやってきて、ライルの家まで案内した(トラクターは何とか動いた)。

林の中にある寂れたライルの家に到着。呼びかけるとライルが現れ、トラクターで会いに来てくれたことに瞳を潤ませる。

ライル(ハリー・ディーン・スタントン)

夕暮れから夜になり、二人は幼い頃にそうしたように、満天の星空を眺めていた。

映画『ストレイトストーリー』完

ストレイトストーリーとマルホランド・ドライブとの関係

※マルホランド・ドライブのネタバレを含みます。

心温まる映画にショッキングな事実だが、主役・アルヴィン・ストレイトを演じたリチャード・ファーンズワースは本作公開の翌年2000年に、癌を患い、苦痛に耐えかねて自宅でショットガン自殺をしてしまった(80歳没)。

どこかで聞き覚えがある内容ではないだろうか?

そう、その事件の翌年2001年に公開された、デヴィッド・リンチ監督のマルホランド・ドライブのラストシーンだ。

ナオミ・ワッツ演じるダイアンは、現実に絶望して銃を口に咥えて自殺して幕を閉じる

リチャード・ファーンズワースの死が『マルホランド・ドライブ』のラストのアイデアのきっかけになったかは、リンチ監督自身のみぞ知るところだが、この件でショックを受けたことはまちがいないだろう。少なからず影響を受けたと思う。