ホラー映画『女神の継承』(The Medium)。鬼才ナ・ホンジンが企画した作品で、精霊信仰のあるタイの田舎に住む美女が、女神を宿されて狂い、精神崩壊していく。そして明かされる驚愕の事実とは…というストーリー。
- 驚愕のラストや女神バヤンの考察
- ラスト結末までネタバレあらすじ解説
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
作品についての視聴者・口コミアンケートも投票お願いします↓
映画『女神の継承』作品情報・予告
原題:『ร่างทรง Rang Song(霊媒)』英題:『The Medium』
ジャンル:ホラー、土着信仰
年齢制限:R15+(15歳以上,グロテスクな描写あり)
監督:バンジョン・ピサンタナクーン
原案・脚本:ナ・ホンジン
『チェイサー』や『哭声/コクソン』など評価の高いサスペンス・ホラーを世に送り出してきた韓国のナ・ホンジン監督がタイの土着宗教に注目し、バンジョン・ピサンタナクーン監督とタッグを組みました。
『女神の継承』登場人物・キャスト
ミン(行動がおかしくなった女性)|cast ナリルヤ・グルモンコルペチ
ニム(ミンの叔母、霊媒師)|cast サワニー・ウトーンマ
ノイ(ミンの母)|cast シラニ・ヤンキッティカン
マニット(ミンの叔父)|cast ヤサカ・チャイソーン
パン(マニットの妻)|cast アルニーワッタナ
サンティ(ニムの知り合いの霊能者)|cast ブーンソン・ナクプー
『女神の継承』あらすじ
タイの東北にあるイーサン地方へやってきたドキュメンタリー撮影班は、ニムという霊媒師に取材をすることに成功。
彼女は女神・バヤンの霊媒であり、悪霊のしわざで病気になった地域住民を救っていた。
ニムは、若い頃に女神・バヤンの霊媒として能力を継承するときにもがき苦しんだことを話す。
まもなくニムの姉・ノイの夫・ウィロイが死亡。ニムは葬式へ行き、取材班も同行した。
もともとは姉のノイがバヤンの継承者として選ばれたが、彼女は拒否してキリスト教に改宗し、妹のニムが選ばれた経緯があった。
ニムはノイの夫・ウィロウの家系が呪われており、息子のマックもバイクの事故で少し前になくなっていると話す。
ノイの娘・ミンが葬式のあとの会食で暴れ出した。
取材班とニムはミンが夜中に隣に住む盲目の老婆と目を合わせていたのを目撃。
ミンに奇怪な行動が目立つようになり、ノイはニムに助けを求めるが…。
ネタバレなし感想・海外評価
取材班がタイの地方で精霊信仰とその狂気を取材している設定のモキュメンタリー形式(擬似ドキュメンタリー)です。
主観カメラが映すショッキングな事実、グロテスクな殺人、ラストの最悪な結末と、ホラー好きの大好物が全部詰まっています。
海外での評価はまずまずな感じですが、土着信仰系やフォークホラーが好きな人はハマる傑作です。
おすすめ度 | 90% |
世界観 | 96% |
ストーリー | 90% |
IMDb(海外レビューサイト) | 6.5(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 79% 一般の視聴者 73% |
メタスコア(Metacritic)ユーザースコア | 6.4(100点中) |
※以下、映画『女神の継承』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『女神の継承』ネタバレあらすじ解説
取り憑かれたミン
ミンは務めている人材派遣会社で大量に経血を流し、おびえながら家に帰ってくる。
さらに会社の監視カメラで、ミンが夜中に社内に侵入して複数の男性と性行為をした映像が確認された。ミンはクビになる。
ミンは暴れるようになり、母・ノイや一緒に暮らしているノイの兄夫婦、マニットとパンも驚きを隠せない。
ミンの人格は完全に崩壊し、娼婦や子供などさまざまな人格が憑依して暴れる。
ノイとマニットは手首を切ったミンを発見し、救急車を呼ぶ。
ノイはミンの命を助けるために女神バヤンを移す儀式をしてほしいとニムに頼んだ。
しかしニムはミンが女神バヤンの継承で苦しんでいるのではなく、悪霊が取り憑いていると考えた。継承の儀式はできない。
ニムはミンが兄・マックと近親相姦関係にあり、マックがそれを苦に自殺したことを知る。
まもなく、ミンが撮影スタッフを殴ったすえに失踪。ノイやマニットたちは必死で行方を探した。
ニムはミンの部屋にあった使用済みコンドーム、使用済み生理用ナプキンなど不浄なものを集め、マックが自殺した場所で女神バヤンの力を借りた儀式を行う。
ニムは雨にうたれながら卵を割り続け、ミンの居場所を突き止めた。
ミンは森のなかにある、かつて彼女の祖父が所有しており火事を起こした工場跡地で発見された。
しかしニムは、崇めていた山の中の女神バヤン像は首が切断されているのを発見し泣き叫ぶ。
監視カメラに映ったもの
ニムは自分1人の手に負えないと考えて、知り合いの祈祷師・サンティに助けを求める。
サンティはミンに取り憑いている悪霊が1体ではないと告げた。
ノイの夫・ウィロイ側の祖先がかつてたくさんの人々の首を切り、その末裔であるミンに呪いが集中したのだ。
サンティとニムは協力して除霊の儀式を行うことに。
スタッフはノイの家のいたるところに監視カメラを設置した。
翌日映像を見返すと、夜にミンが部屋から抜け出し、テーブルで失禁したり、寝ているノイを見つめたり、生肉を食べてたりしている。
さらに翌日、ミンは飼い犬を茹で殺して食い、マニットとパンの息子を連れ去った。
マニットは狂ったように息子を探し回る。息子は草むらで発見され生きていたが、マニットはミンに刃物で襲われて手を怪我した。
最悪のラスト結末
儀式の準備をしていたニムは眠ったまま死亡していた。
サンティは儀式の決行を決意し、ついに工場跡地で儀式が始まる。
牛を生贄に捧げ、ノイに悪霊を降ろして除霊させる流れのはずだった。
しかし家で部屋に閉じ込められていたミンが赤ん坊の泣き真似をしてパンに扉を開けさせる。
ミンはパンを殺害。パンのそばにいた息子を食い殺し、撮影メンバーも殺害して工場へ向かった。
ミンが部屋から出たせいで儀式は失敗。
サンティは気が狂い建物から落下して死亡した。
屋外にいたサンティの弟子たちも狂い、撮影クルーをつぎつぎに食い殺していく。
ノイは「バヤンが宿った」と言って儀式を続行させるが、それは悪霊が言わせたウソなのか、建物のなかにいたサンティの弟子たちも狂って殺し合う。
建物の中にいたマニットは飛び降りた。
ミンがやってきて母・ノイにガソリンをかけ焼き殺した。
転がった撮影班のカメラが、工場内のすみにある針が何箇所も刺されたワラ人形を映していた。人形にはヤサンティア(ミンの父の家系の名字)が書かれている。
ニムの最後の映像
儀式の準備をしていたニムは死の直前に撮影班のまえで、「私がバヤンの霊媒なのかわからない」と告白していた。
映画『女神の継承』終わり!
『女神の継承』考察(ネタバレ)
女神バヤンの不在:ニムは悪霊の霊媒?
本作で1番怖いのは呪いでなく、女神バヤンの不在だと思いました。
女神バヤンがなぜ力を貸してくれないのか?
最後のニムの証言から、そもそもバヤンが実在するのかも怪しいです。
姉・ノイが継承を断った時点で女神バヤンの御加護がはなれてしまったと考えることもできます。
ただニムは卵を割りまくる儀式を行い、失踪したミンの居場所を突き止めていました。
ニムが何らかの能力を持っていることは確かです。
ここから導き出される可能性は、ニムについているのがバヤンでなく悪霊だったというもの。
(本人も気づいていませんが)ニムはバヤンの霊媒ではなく、悪霊の霊媒だったという解釈です。
また、バヤンという女神がそもそも善だけでなく悪をも司(つかさど)っている解釈もあります。
バヤンはキリスト教における神のように、ときには救い、ときには罪深き人たちを滅ぼすのです。
もしくはインドのシヴァ神のように、破壊と再生などまったく異なった側面を持つ存在かもしれません。
ノイが若い頃にバヤンを拒否した時点でバヤンの怒りをかい、ノイの娘・ミンが精霊を否定しあざ笑っているのを聞いて罰を与えようと決心したのかもしれません。
つまりバヤンは、もともと祈祷師・ニムや人間なんかにおしはかれる生やさしい存在ではないのです。
しかし、ニムたちは女神バヤンが自分たちに良いことをしてくれる精霊であると決めつけていました。
広い視点だと、人間の勘違いやおごりが悲劇につながってしまったと解釈できます。「神なら助けてくれるはず!」それ自体が人間のエゴなのかもしれません
人形は誰が?ラストシーンの意味
ラストで取り憑かれたミンが母・ノイを焼き殺したときに、ヤサンティアと書かれたわら人形が映っていました。
ヤサンティアとはミンの父方の家系のことです。
ヤサンティア家は昔処刑人をつとめていたらしく、つもりつもった恨みやカルマ(業)がミンに降りかかった形です。
人形があるからには呪いをかけた人物がいるはずです。
3つのパターンが考えられます。
- ヤサンティア家に殺された人物の子孫
- 悪霊に取り憑かれていたミン
- 利用されたニム
恨みを持つ人物の子孫が呪いをかけたパターンが確率的には高い気がします。
しかし呪われたミンが人形でさらに呪いを強化したケースも捨てきれません。
あとは先の考察のように、ニムに憑いているのがそもそもバヤンじゃなくて悪霊だとしたら、彼女が意識を乗っ取られて人形で呪いをかけた可能性もわずかながらあると思います。
ニムも悪霊に利用されて殺されたわけです。
『哭声/コクソン』との共通点
ナ・ホンジンの『哭声/コクソン』には共通点がたくさんありますが、ここでは大枠のテーマについて考えてみます。
『哭声/コクソン』も『女神』いったん信仰がゆらぐと、悲劇になってかえってくると提示しているようでした。
不信仰への罰です。
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映画『女神の継承』ネタバレ感想・評価
ジャンプスケア(びっくりさせる場面)やグロテスクな描写もそれなりに強烈なのですが、それ以上にタイの土着信仰をモチーフにした“湿度の高い妙な気持ち悪さ”にグイグイ引き込まれました。
取り憑かれた美女・ミンに大量の経血があるシーンや、テーブルで失禁の場面、霊媒師ニムが儀式をして卵が割れて黒いドロドロが出てくるシーンなど、生理的な嫌悪感をかきたてる演出がずいしょに仕掛けられています。
さらに儀式が失敗して一部が取り憑かれ、全員を殺してしまう最悪なラスト。悲劇と暴力のカタルシス炸裂です。
ゆるいインタビューから若い女性・ミンが取り憑かれ、家族ごと破滅してしまうダイナミックな構成が素晴らしいと思いました。
そしてみんなが悪霊の呪いで惨殺されたあとに、霊媒師のおばさんニムの生前最後のインタビューが流されます。
「本当に私が女神バヤンの霊媒になっているかわかんない」という…今までやってきたことは何だったんだ?のトンデモ発言オチ。
絶妙な仕掛けです。
ニム自身が女神バヤンを信じきれていなかった=最初から全員死亡が確定だったというゾッとするような事実がヌルッと顔を出しました。
全体的に土着信仰のリアリティを全面に出すコンセプトと、最悪な悲劇が絶妙なバランスでブレンドされていました。
モキュメンタリー形式も効果的だったと思います。
2020年代ホラーのなかでは台湾史上No. 1ホラー『呪詛』と並んで最高に楽しめた作品でした。
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アジアのホラーが熱いですね!
最後のまとめ
『女神の継承』は、鬼才ナ・ホンジンとタイの監督バンジョン・ピサンタナクーンがタッグを組んだ異色のフォークホラー!
ナ・ホンジン監督には今後も大注目ですね。彼の次回作が楽しみすぎます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『女神の継承』レビュー終わり!
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