『天気の子』ネタバレ考察!ラスト結末の評価がひどい理由,つまらない?賛否両論

  • 2024年4月14日

新海誠監督の新作『すずめの戸締り』も公開されるので、映画『天気の子』(2019)を見てみました。美しいメッセージがありながら、賛否両論で結末に否定的な意見が多いのもうなづける作品でした。

記事では『天気の子』の忖度ゼロのぶっちゃけ感想・酷評ポイントネタバレありの考察をまとめています!

最新作『すずめの戸締まり』のレビューはこちら↓

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映画『すずめの戸締り』

『天気の子』ネタバレ感想と評価

映画『天気の子』の評価は65点。
アニメーションや構図は文句なしの100点満点です。
ただ正直、ストーリーが面白かったかと言われれば微妙。満足度でいえば『君の名は』の1/2くらいでした。
「結末や帆高の行動に納得できない」などいろいろ言われてますが、そういうこと以前に個人的には物語の尻すぼみ感がすごい作品だと感じてしまいました。
美しい雨の描写、音符のような魚の群れ、ビルの屋上にある神社など、現実と幻想を巧にリンクさせた序盤は素晴らしかったです。
でも面白かったのは帆高が雑誌ムーの下請けをしている須賀圭介のところで働き始めて、陽菜と「晴れ女の商売」を始めたあたりまで。
そこから登場人物の陽菜側と須賀側がうまくリンクしていないというか…須賀が一旦出てこなくなってしまいます。
帆高からの視点で須賀との人間関係が中途半端な状態で前半終わっちゃったみたいな印象を受けました。
前半に帆高と須賀を描いたシーンがあと少しだけあれば、帆高の成長譚が垣間見えて後半でもっと感動できたでしょう。
そして前半は駆け足だったのに中盤から、帆高が警察に追われているからなんとなく都内で逃げる中弛みの時間がやってきます。
本来であれば例えば「北海道まで逃げよう!」とかのほうが絶対盛り上がったと思います。
しかし『天気の子』では東京がストーリーの中央に据えられているので、プロットに縛られてロードムービーっぽい展開になっても東京周辺から移動できなかったのです。
シネマグ
東京でホテルを探すくだりはまったくと言っていいほどワクワクしません。
あとは終盤も帆高が警察から逃げてビルの屋上の神社へ行き、なんとなく陽菜を現実に連れ戻しただけなのでクライマックスが弱いとも感じました。

主人公・帆高に共感できない

ネットのレビューを見ていると帆高の行動原理がわからないという意見が多かったです。
個人的には行動原理が不明というより、多くの10代と同じく狭い世界しか見えておらず、突き進んでしまう現実によくいるタイプなのだと思いました。
多かれ少なかれ視聴者も自分の未熟さを突きつけられているようで、居心地の悪さやウザさを感じてしまったのではないでしょうか。
なので実は帆高の心理描写って結構リアルだと思います。
リアルなので“理想”を投影できる従来のアニメ主人公的存在ではないことが賛否両論の発端でしょう。
共感できないというより、べつに共感したくないのです。
彼が何を好きかも一切わかりません。ムー系のオカルト好きとかでもなさそうですし、完全なる没個性の主人公なんですよね。
そもそも帆高が家出をした理由からして不明です。
さらに事件の後に親元に戻って高校生活を3年間普通に送ったことから、家庭に大きな問題があったとも思えません。
感想を語る犬
自分勝手・厨二メンタルのどこにでもいそうな少年のうえに、背景がよくわからないので余計距離ができてしまうというか…。
帆高が感情移入したいと思えるキャラクターなら、最後の結末で帆高が東京を犠牲にして陽菜を選んだとしてももう少し納得できるものに感じられたと思います。
シンジ君のような魅力がないにも関わらず東京を滅ぼしちゃったイメージです。

賛否両論の理由

結論づけるなら帆高が感情移入できない主人公であり、そんな彼が東京水没を選択したから否定的な意見が多く出たのでしょう。

セカイ系だからというより、心理的に視聴者との距離がある人物が好き勝手したから「なんか嫌だコイツ」となってしまったわけです。

またストーリーがフワッとし過ぎているという意味では、同じく川村元気さんプロデュースのアニメ映画『バブル』(2022)に近いがっかり感があったのも事実です。

映画って難しいですね。

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『天気の子』考察(ネタバレ)

東京を犠牲にして陽菜を救った?

『天気の子』の結末を否定している人の多くが「帆高が東京を犠牲にして陽菜を救ったことが受け入れられない」という理由をあげています。

陽菜の命と東京が天秤にかけられたと受け取ってしまったわけです。

個人的にはラスト結末は天秤の問題というより、どんな選択も個人に委ねられている美徳を表現していたように思えました。

つまり大多数の人に支持されない価値観を持ってもいいという美徳です。

感想を語る犬
そう考えると美しいメッセージだと思いますけど…。

ただ『天気の子』に関しては、3年間雨が降り続いて東京水没というあまりにも大きな代償なので引っかかってしまった人も多いのでしょう。

天秤が極端すぎることに加え、帆高にもいまいち感情移入できないので「犠牲がいくらなんでも引き合わない…」となってしまったのだと思います。

少し現実的に考えてしまえば、雨が降り続く土地に住むことはできません。洪水や土砂災害で何万人も命を落とすでしょう。

「地形が元に戻った」と呑気に言えるのはあのおばあちゃんくらいです。

代償があまりにも大きいので、須賀が中盤で言っていたように「1人を犠牲にして東京が助かるならそれも仕方ないのでは」の考え方のほうが説得力を持ってしまうような見え方でした。

本来は特定の個人より全体の幸福を優先する功利主義ではなく、個人の尊厳が大切では!?という前向きな問題提起だったはずです。

ちなみに新海誠監督の次作『すずめの戸締り』では犠牲のテーマはありつつも、より万人受けする形になっています。

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『すずめの戸締り』の白猫・ダイジン

死んだ須賀の妻も晴れ女?

須賀の妻が晴れ女だったという考察もあるようです。

とても面白いと思うのですが個人的にはそういう話じゃないと感じたので反論を書いておきます。

まずキャラクターとして須賀が、ヒロインを救えなかった世界線の未来の帆高と重なる存在だというのは正しいと思います。

須賀は何らか大人の決断をしてしまったため、最愛の妻が死んでしまった可能性はあるでしょう(難産になり妻の願いで娘を優先させるなど)。

しかし、もし仮に死んだ妻が晴れ女だったなら晴れ女で商売をしようとしていた帆高を真っ先に止めるはずですし、陽菜の存在にもっと動揺するはずです。

「エンタメと割り切って提供する」とかオカルトをまったく信じていない発言も出ないでしょう。

最初から雨が好きだった帆高

冒頭で島から家出してきた帆高は、船の甲板で雨にふられてはしゃぎます。

帆高は最初から雨が好きだったのでしょう。

つまり雨が降り続く世界を選ぶ結末の伏線です。

ラストでは雨が降り続くけど陽菜と一緒にいられる世界線を選択します。

「雨が好きな人間がいてもいいじゃないか」

そんな抽象的かつ前向きなメッセージが込められているのだと思いました。

社会の現実を突きつける人柱

映画『天気の子』で何度も出てきた“人柱”というワード。

この言葉は社会の現実を突きつけていた気がします。

日本に限らず世界のどこでも、社会は誰かの犠牲のうえに成り立っています。

例えば日本が戦後に高度経済成長できたのも会社に人生を捧げるサラリーマンという人柱が無数にいたからかもしれません。

日本で美味しくて安いチョコレートが食べられるのも、ガーナの少年少女たちがカカオ栽培で長時間の危険労働をしているおかげだったりします。

『天気の子』ではファンタジー要素を絡め、陽菜の命で東京が救われるとしていました。

陽菜は社会で犠牲になる人々の象徴なのです。

犠牲になる人から目を背けない!というのが『天気の子』の大きなテーマだと思いました。

さらに、本作のユニークかつ残酷なところは犠牲がなければ社会は消えてなくなると提示したことだと思います。

今の日本の生活も“人柱”たる存在なしには成立しません。

自分たちの生活が陽菜のような人柱のうえに成り立っていると再認識させられ、屠殺場の牛の存在をはじめて知ったような、嫌な現実を突きつけられたようで賛否両論になった側面もあると思いました。