映画『PLAN 75』ネタバレ感想・考察:ラスト意味や安楽死のメッセージ解説

  • 2023年5月19日

映画『PLAN 75』(プラン75)は、75歳以上の老人が望めば安楽死できる制度が可決された社会を描く問題作!

免許どころか命の返納制度

倫理・道徳的な問いかけに加え、人の命や尊厳について深く考えさせられます

CineMag
カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品された衝撃作です!

作品情報・キャスト解説・あらすじ、ぶっちゃけ感想・評価(ネタバレ)ラスト結末・メッセージ深掘り考察、ミチの選択の理由(ネタバレ)を知りたい人向けに徹底レビュー!

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目からどうぞ)

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映画『PLAN 75』作品情報・キャストと演技の印象

公開・制作国・上映時間2022/06/17・日本・112分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督・脚本:早川千絵
撮影浦田秀穂
音楽:Remi Boubal

プラン75 登場人物・キャスト

角谷ミチ(ホテル清掃員として働く高齢の女性)|cast 倍賞千恵子→社会から捨てられても感情をぶつける相手もいない不遇な老人をリアリティたっぷりに演じていました。現実に彼女のような境遇の人もいるのだと考えさせられます。

岡部ヒロム(市役所職員。PLAN 75の申請受付担当)|cast 磯村勇斗(2022年は実写映画『ホリック xxxHOLiC』にも出演)→死を斡旋する役柄ながら優しさがにじみ出ていて素敵でした。

成宮璃子(PLAN 75のコールセンタースタッフ)|cast 河合優実→すごく普通の女の子ですが、死を選択した老人と会話して内面を変化させていく物語のキーパーソン。ハマり役でした。

幸夫(岡部の叔父)|cast たかお鷹

マリア(PLAN 75の安楽死施設で働く出稼ぎ外国人)|cast ステファニー・アリアン

あらすじ

映画『PLAN 75』の倍賞千恵子

©︎ハピネットファントム・スタジオ

不景気が続き、若者が老人を殺す事件が多数勃発する問題を受け、75歳以上の人を対象に無料で安楽死を提供するPLAN 75という制度が可決されます。

ホテルの清掃員として働く高齢女性・角谷ミチ。

同じく高齢の同僚が仕事中に倒れてしまい。ミチたちも契約を打ち切られてしまいます。

一人暮らしでお金がないミチは仕事を探して回りますが、雇ってくれるところはありません。

夜間の交通整理のバイトをしますが、体力的に続けるのは難しそうです。

さらに高齢の友人が自宅で孤独死しているのを発見。

ミチは生活保護を受けようとしますが、取引時間が終わっています。

意を決したミチは、市役所職員岡部ヒロム(磯村勇斗)からもらったPLAN 75の資料に目を通して電話。成宮(河合優実)というスタッフが真摯に対応してくれますが…。

『PLAN 75』ネタバレなし感想・見どころ・海外評価

映画 plan 75(プラン75)

©︎ハピネットファントム・スタジオ

エンタメ性はないですが、人間の尊厳や、生死について深く考えさせられる良作です。

俳優陣の哀愁たっぷりの演技も素晴らしく、ヒューマンドラマとしても楽しめます。

カンヌ国際映画祭にも出品され、海外レビューサイトIMDbの評価も10点中7.4と比較的高いです。

ヴァスカヴィル家の犬』とどちらを観ようか迷っている人には断然『PLAN 75』をオススメします。

おすすめ度 80%
倫理的なメッセージ 95%
ストーリー 84%
IMDb(海外レビューサイト) 7.4(10点中)
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) 批評家93% 一般93%

※以下、映画『PLAN 75』のストーリーネタバレありなので注意してください!

映画『PLAN 75』ネタバレ感想・評価

突き刺さる命の返納制度

映画『PLAN 75』の評価は86点。ヒューマンドラマとして完成度が高く、倫理・道徳の面でも見る価値十分です。

免許返納制度のように75歳以上のお年寄りに“命の返納”を求めるシリアスなコンセプトが上手く機能していました。

鑑賞中、命とは、生と死とは、人間とはという問いを常に投げかけられるのですが、哲学的な思考を超え、倍賞千恵子さんが死ぬのをやめて夕日を見るラストでは生きる美しさのようなものが抽象的に描き出されていました

主演の倍賞千恵子さんはじめ、磯村勇斗さん、河合優実さんらの好演も見逃せません。

PLAN 75という安楽死制度に頼るしかなくなった老人と、対応する職員それぞれの立場の葛藤が描かれ、話が進んでいくにつれて狂った社会システムへの怒りが熱を帯びていきます。

決してアイデア頼りにならず、優れたヒューマンドラマであった点も見逃してはいけないでしょう。

PLAN 75 深ぼり考察(ネタバレ)

主人公はなぜ死を思いとどまった?

PLAN 75により、ベッドに寝かされて安楽死を待つだけになった主人公・ミチ。

しかし隣のベッドで死んだ男性(岡部の叔父)を目の当たりにして呼吸器を外します。

ミチは生きることを選んだのです。

なぜミチは死を拒んだのか?

その問いは視聴者それぞれがじっくり考えるべきだと思います。

なのであくまで私の個人的な解釈になりますが、ミチは機械で強制的に迎える死に命の尊厳・生命の神秘を感じなかったのではないでしょうか。

夕日と同じです。沈むまでが夕日です。むしろ沈む間際が1番美しかったりします。

夕日がゆっくりと沈まず、途中でいきなり夜がきたら美しさも情緒もあったもんじゃないです。

考察系ネコ
ミチはそれと同じことを自らの命に対して感じたのではないでしょうか?

人間の生命は、生まれるだけでなく死を迎えたときに初めて完成するのかもしれません。

途中で機械が終わらせてしまえば、それは人間の生命と呼べないというメッセージがある気がします。

ちなみに、ミチの隣のベッドで死亡した岡部の叔父がミチの元旦那?かとも一瞬思いました。

しかしそう捉えると、漠然とした死と対峙する老人というメインテーマが薄れてしまうので、おそらく違うでしょう

老人と若者でなく人間とシステムの対立

冒頭では不況に苦しむ若者が「老人が増えすぎたからだ!」と老人ホームを襲撃する事件が描かれます。

老人のために若者が経済的苦境に追いやられる世代間の対立がテーマのひとつかと思いきや、違います。

老人 VS 若者の構造ではなく、人間 VS システムがテーマになっているのです。

主人公・ミチはPLAN 75のコールセンター職員・成宮と喋っているときに電話なのにお辞儀をするなど、精一杯の誠意を込めていることがわかります。

対して成宮はマニュアル通りの応対です。

ミチは人間を相手にしているつもりでも、実際に対応しているのは人間でなくシステムなんですね。

しかし、若い成宮=システムという安直な図式ではないのが『PLAN 75』の優れたところ。

成宮はミチに会い、彼女が死すべき存在ではなく、生きている人間だと気づきます。

若者と老人がお互い人間として呼応できるというポジティブなメッセージが浮かび上がってきます。

問題なのは若者でも老人でもなく社会システムです。

しかしコールセンターの成宮に、国会で通った法案をどうこうする力はありません。

本作は不況や高齢化社会を支えるシステム自体が、人間の尊厳を脅かしているというパラドックスを伝えているのでしょう。

映画ほど極端でなくても、このさき不景気が続けば日本でも老人にさらに負担を強いる状況に陥るかもしれません。

ストーリーはフィクションでも、問題提起はそのまま現実に当てはめられます。

『PLAN 75』はそういう意味でも価値のある作品でした。

演出による視聴者への問いかけ

成宮が突然こちらを見るホラー演出

嗚咽しながら明日安楽死を迎えるミチとの電話を切った成宮。

上司が新人に「死ぬのをやめようと思いとどまらないように対応しましょう」と言っているのを聞いて、凍りついたような表情を浮かべます。

自分たちコールセンタースタッフが、生きることに迷った老人を殺していると悟ったからです。

感想を語る犬
背筋がゾッと凍るくらい恐ろしい構図ですよね。
そして成宮は画面の正面を見ます。つまり見ている我々観客と目が合います。ゾッとしました。ここだけホラー演出ですね。メッセージ性も相まって素晴らしいです。
「この構造は現実に起こっている!」と突きつけられているようでした。
多かれ少なかれ、私たちもこの状況に加担していると気づかされるのです。
視点を広げてみるなら老人と若者の関係に限らず、人間と人間のコミュニケーションを取ろうとする人に対して、マニュアル通りの機械的な対応をしてしまうことってありますよね。
コールセンター、コンビニのレジ、ファーストフードの注文などなど、場面は数多あると思います。
誠意を込めて頼んだのに塩対応されたら傷つきますよね。
もちろん自分が塩対応してしまう側になることもあるでしょう。
しかしよくよく考えてみると、これって人間的な心を機械的なマニュアルで殺していると捉えられませんか?
なんでもかんでもシステム化され、老人だけでなく若い世代も人間的なコミュニケーションの場が狭まって苦しんでいます。
日本中にディスコミュニケーションの苦しみがあふれているのです。
考察系ネコ
社会の歪みのメタファーとしてPLAN 75という狂ったシステムが描かれたのだと思いました。

架空のディストピアでなく現実の日本が舞台

序盤は市役所でのやり取りや主人公たちがホテルで働くシーンがメインになりますが、日本のどの辺の話なのかわかりません。

老人殺害が頻発しており、PLAN 75という過激な制度も成立したことから、架空のディストピアが舞台なのかという想像が脳裏をよぎります。

しかし、後半になってミチや岡部の叔父の安楽死が決行される日が近くなり、ドライブなどの風景から急に屋外の様子が分かり、舞台となっている地域はのどかな田舎だとわかります。

紛れもなく日本の田舎です。

現実の日本でこの制度が決行されているというメッセージが急に後半に強まるという巧みな構成だと思いました。

もちろんPLAN 75という制度自体はフィクションです。しかし「構造には同じことが起こっている」という問題提起があります。

最後のまとめ

映画『PLAN 75』は、老人を社会的にいらない存在として描いた衝撃作でしたが、人間の生と死、尊厳にしっかり向き合ったことにより、メッセージ性に優れた良作になりました。

エンタメ性はなくても生き方について問い直させてくれる価値があり、ヒューマンドラマとして見応えも十分。

感想を語る犬
人間が生きる意味について自分なりの答えを出すキッカケを与えてくれた意義深い作品でした!

ここまで読んでいただきありがとうございます。『PLAN 75』レビュー終わり!

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