ポンジュノ監督の映画『殺人の追憶』(英題:Memories of murder)があまりにも傑作すぎたので、テーマや本質はなんだったのか深掘り解説。
そして、本作のもとになり、実際に起こり長い間未解決だった華城連続殺人事件の犯人も紹介。
映画『殺人の追憶』テーマ ネタバレ考察
『殺人の追憶』の主人公、パク刑事とソ刑事は作品の中で大きく心情を変化させた。そこが本作の見どころであり、テーマが根差す部分でもある。
結論から言うと、「激しい憎しみで人はどう変わっていくか」というのが、この映画の1番本質的なテーマだと思う。
2人がどう変わったか紐解いていこう。
子どもから大人になったパク・トゥマン/ソン・ガンホ
捜査にかける情熱は人一倍だが、容疑者を殴る蹴るなどの暴行も厭わない田舎の刑事。
冒頭の彼は、いかにもガキ大将というイメージ。事件解決のことしか考えず、好き勝手行動する様は、まさに“子ども”だ。
そして事件が解決できず、激しい怒りの中で失望し、十数年が経ったエンディングでは、周囲におべっかを使うサラリーマンに。さらに妻帯しており、ゲームをして母親に叱られた息子に「得意なのか?」と、彼を尊重するような変貌ぶりが笑えた。そして少し微笑ましくもあった。
パクは、『殺人の追憶』のストーリーを通じて、子どもから大人になったのだ。
アカデミー作品賞を受賞した『パラサイト半地下の家族』にも出演したソン・ガンホが、荒々しい田舎の刑事パク・トゥマンを見事に演じている。
賢人から愚者になったソ・テユン/キム・サンギョン
ソウル市内からやってきたソ・テユンもこの殺人事件で悲痛な変貌を遂げた。
頭脳派の刑事だった彼は、犯人が見つからない苛立ちで、徐々に過激な思考に変化していく。
特に印象に残ったのは、女子中学生が殺されて死体に古い絆創膏があったシーン。
事件を通して知り合ったその女子中学生が、絆創膏を貼ってくれた刑事のソ・テユンのことを気に入り、ずっと剥がさなかったのだろう。
思春期の恋心は、受け入れがたい無惨な結末を遂げたのだ。現場で彼女の遺体を見たときのソ刑事の怒りは想像できないほどだろう。
ソ刑事のその後は描かれていないが、ラストで雨の中いきなり容疑者ヒョンギュを射殺しようとするところを考えると、憎しみで壊れてしまったのかもしれない。あれじゃ警察も続けられないと思う。
賢人だった彼は、衝動で生きる愚かな人間の仲間入りを果たしたのだ。
凄惨な事件の影には、全身全霊をかけても女子中学生を守れなかったことに激しく失望して壊れてしまった、ソ・テユンのような人間もいるのだ。
同じ経験でも変化の仕方が違う
パクとソ刑事の対比構造も興味深い。
パクは一連の事件を通して、ある意味まっとうで平凡な人間になっている。ある面、救われたといってよいだろう。
一方、ソ刑事は頭脳派のキレ者から暴走気味に。そこに救いはない。
同じ苦しみを分け合った二人。しかし将来は大きく異なる。ここにポンジュノのアート性が凝縮されている。
映画『殺人の追憶』連続殺人事件の犯人が判明・解説
本作のもとになった華城連続殺人事件は1986〜1991年に、現在の韓国・華城市周辺の農村で起こった。
被害者は10代から70代の女性10名。2006年に時効が成立し、未解決事件となる。
捜査に参加した警官は何と180万人、取り調べを受けた人物は3000人というから驚き。まったく手がかりがなくて、住民を片っ端から調べたのだろう。
ちなみに『殺人の追憶』は華城連続殺人事件が基になっているが、全て事実ではなく細部は脚本を書いたポン・ジュノによって大きく脚色されている。
犯人は誰?正体が2019年に判明!顔写真も
2019年9月19日に、妻の妹の暴行殺人容疑で逮捕され服役中だったイ・チュンジェが華城連続殺人事件の犯人だと判明!
引用元:namu.wik/w/파일:이춘재 졸업사진.
最新の鑑定技術で、現場のDNAと一致したとのこと。イ・チュンジェは事件が起こった華城市の台安邑で生まれ育っており、犯行当時は20代前半だった。
華城連続殺人の被害者は全部で10名だが、それ以外にも5名、計15人殺しているシリアルキラーとして、韓国のゾディアックと呼ばれ歴史に汚名を刻んだ。
警察の捜査のずさんさが各方面から指摘されており、『殺人の追憶』のストーリーも大筋では間違っていないといえるだろう。
ポンジュノ監督の他の作品との共通点考察
母なる証明との共通点:のどかな田舎に潜む恐怖
知的障害を持つ青年とその母親を描いた『母なる証明』も、ポンジュノ監督の見逃せない傑作。
韓国ののどかな田舎に、殺人鬼がバレずに潜んでいる点が共通している。ポンジュノ監督のサスペンスは、ここに回帰している気もする。
『殺人の追憶』は刑事側、『母なる証明』は殺人者側からと、視点が反対になっているのも興味深い。
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