今回は、映画『ミラクルシティコザ』(2022/01/21沖縄先行上映。2/4全国公開)に出演された、俳優・小池美津弘氏のディープなインタビューを掲載。
ミラクル・シティコザの撮影の舞台裏、桐谷健太さんなど共演者の印象、裏話などを濃密にたっぷりと語ってくれました。
右手には竜の刺青。左手には手巻きタバコの小池氏。インタビューが進むにつれ徐々に福島弁が炸裂し、隙あらばギャグをぶっ込んでくるキャラの濃い人物でした!
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沖縄へ移住し、50代で役者を始めた経緯
ーーー小池さんは福島県出身ということですが、沖縄へ移住した経緯を教えていただけますか?
はい。娘が高校受験で沖縄を受けてこっちの学校に入ることになって、保護者としてそのまま移住してきたっていう感じですね。
まあ3年ぐらいは一緒にいてもいいかなって思ってたら、気づいたらずっといます。
なんかいい人たちに知り合ったって言うか、変な人たちに知り合ったというか(笑)。沖縄に居座る羽目になりました。
ーーー沖縄に来てからは理容師の仕事の傍ら、演劇やバンドの活動をされているようですね。演劇はいつからやるようになったのですか?
5〜6年前、そのぐらいかな。きっかけは、理容師の店の隣の革屋さんの経営者の一人が脚本書きだったんですよ。知り合いになって、「俺の脚本の舞台に出ないか?」と誘われたのがきっかけです。
ーーー雰囲気や見た目のインパクトでのスカウトということですかね。
そういうことです。まあ最初はね、嫌だったから断って「役者知っているからそっち紹介するよ」って言って、自分のお客さん(理容店の)役者でもない人を紹介したんですよ(笑)。
そしたらその人が、「学芸会のノリかと思ったら本気の舞台だった」って言って怒って、「俺も出たんだから、お前も出ろって」いう話になって、最初は致し方なく責任を取る形で出たんです(笑)。
ーーーそこから演劇の道に入ったんですね。
出たら面白かったんですよ。あれ?向いてるんじゃねって。
ーーー面白すぎるエピソードですね。
あんまり自分発信ないよね。基本受け身です。
福島から沖縄に来たのも娘が理由だし、演劇を始めたのもそうですし、床屋になったのも、元かみさんが「床屋にならないと、結婚しない」って言ったから(笑)。
自分の目標を持って生きるってことはないですね。人の意見ばっかりです。ただ、最終的に選択して決めるのは自分ですけど。
ーーー受け身だけど、人間的な魅力から色んな話が舞い込んでくるということですね。
柔道もそうだけど受け身からです。ははははははは(笑)。
『ミラクルシティコザ』の映画化経緯
ーーー映画『ミラクルシティコザ』の企画は、2019年の未完成映画大賞への応募からスタートしたようですね。
そうそう。自分も今と同じ役で出演してそれが大賞を取って賞金獲得して、同じく平一紘監督で正式に映画にすることが決まりました。
ーーー撮影はいつからスタートしたんですか?
2021年4月の、ちょうどコロナがなんか収まってた時期に、1ヶ月弱くらいの期間で全シーン撮りました。
ーーー撮影期間1ヶ月。比較的短めですね。
パイロット版が賞を撮って映画化が決まってから、コロナの影響で撮影開始まで2年ぐらいまるまる空いたんで、その間に役者たちは役者たちで煮詰めるところは煮詰めて、平監督もどういう風に撮るか全部決めていました。
自粛期間に台本もどんどん仕上がって、プッシュアップして、撮影始まったら速攻、ポンポンポンと進んだ感じです。
主演の桐谷健太さんが沖縄に来られる期間が決まっていたんで、そこに照準を合わせて一気に撮影しました。
小池さんが演じたキャラクターや役作り
ーーーあらためて映画『ミラクルシティコザ』で演じたハルがどんなキャラクターか教えてもらっていいですか。
私が演じたのは、昔カリスマロッカーだったハル。年取って急に交通事故で死んじゃうんですよね。で、交通事故で死んで魂が成仏できなくって、孫の体を乗っ取るんですよ。
そしたら、今度は孫の魂が抜けちゃって、その魂が過去のハル(桐谷健太演)のところに行きます。過去のハルにタイムスリップした孫の魂が乗り移って、現代と過去が交錯していく内容です。
ーーーなかなか複雑な設定ですね。
撮影してても、さっぱり意味分かんなかったですね。1970年代のコザと、2020年のコザが同時進行で展開していきます。
ーーー役作りの参考にした人などいますか。
役作りの参考…色々考えて、まあ最終的には監督の一言だったんだけど、「そのままで。素の小池さんでいいです」って言うっていうのもあったんで、ほぼ誰か参考にしたとかはないです。
好きな役者はいっぱいいて、イメージ的にもこんな人かなっていうのはあったけど、でも監督が「つくり込まないでそのままでいいです」っていうことだったので。
問題は言葉でしたね。福島出身でなまりが強いから。
ーーー沖縄方言の部分はどうやって調整したのですか?
方言は、沖縄の役者さんに1回セリフ言ってもらって、イントネーションとかを勉強してこいって言われてたんですよ。
で、それしばらく練習して監督に聞いてもらったら「どうもわざとらしい」と…。イントネーションが変だっていうんで、「じゃあもう、なるべく標準語でやってください」と。
で、標準語に近づけようと思うんだけど、セリフが長ければ長いほど、やっぱ福島弁になっちゃうんだよね。
その結果、もう「そのままの小池さんでいいです」という監督の判断になりました(笑)。
ーーー 方言以外で、ハルを演じるに当たって苦労されたことってありますか?
まあそのままでいいって言うから、あんまり苦労はしてないですけど、やっぱり一番気になったのは時代背景だよね。
ロッカーとして、1970年代引きずってるジジイなんで、その時代の映像をたくさん見ました。ヒッピー系のものとか。サイケデリックなものとか。
ーーーカルチャーの体現を意識したんですね。
そう。あと紫のバンドの昔の映像をよく見ました。一応元カリスマ・ロッカーの役だからね。“カリスマ・ロッカー”って言っても“鍵閉めるロッカー”じゃないよ(笑)
ーーー沖縄のカリスマ・ロッカー、ジョージ紫さん的な立ち位置ということですね。
そういうことなのかな。ただボーカリスト役なんでね、城間正男(紫の元ボーカル)を見たり、あとはコンディション・グリーン(沖縄で70年代に活躍したバンド)のボーカル・髭のかっちゃん(川満勝弘)の映像をよく見ましたね。
ーーー紫だけでなく、コンディショングリーンも参考にされたということですね。
でも、何か真似した点は多分ないですね。雰囲気とか見ただけで、結局は素の演技でやってるので。舞台もそうだけど、あんまり役で周りから「こうやれ、ああやれ」って言われたことないんです。
あと今回は、平監督が「セリフに囚われて雰囲気が壊れる方が怖い」っていう考えだったので、セリフ以外の部分に重きを置いて演じました。
福島から沖縄に来たロッカーだったら、もうべらべら喋ったんだけどね(笑)。喋るの好きだから。セリフにないことまでしゃべったと思います(笑)。
ーーー劇中でハルが率いるバンド・インパクトは紫がモチーフになっているんですよね?
まあそうですね。
ーーージョージ紫さんから直接の演技指導などありましたか?
いや、ジョージ紫さんたちバンド陣は、演技でなく音楽指導の方だけだと思います。(音楽関係は、現・紫のベースのクリスさんが担当)
でも多分役者たちはみんな当時の紫を映像で見て、雰囲気出して演じている感じですね。
まあ、現代編のジジイ・バンドは歳を取ってヨレヨレになっているので、当時の紫のようなパフォーマンスをする必要はなかったです。どちらかというと若い俳優たち(過去編)のほうが、当時の紫を参考にしている面が多いと思います。
ーーー小池さんが映画のように1970年代当時の10代に戻れるなら何をしたいですか?
もうその頃は音楽にはまってたんでね。スライ・アンド・ザ・ファミリーストーンとかスティーヴィーワンダーとか聞いてたんで、まあ戻っても同じことやるな。
ーーーバンドを組んでドラムを?
そうね。ドラムしか見えなかったからね。映画ではカリスマ・ロックボーカリスト役だけどね。あえていうなら、ボーカルやってみたいかな。
ーーー役者としての信念みたいなものはありますか?
ない。敢えていうなら俺の場合役作りって、「そのままが良い」って使われることが多いから、なるべく勉強しないようにしてますね。
色んな映像を見たり、演劇見に行ったりして「あ、この演技かっこいいな。真似しよう」と思ってても、取り入れることまではしないようにしています。かっこよく言ったら、感性のほうを磨いていったほうがいいかなと思って。「これ見て俺は一体どう思ったんだ?」っていうほうをより重視している感じです。
ひらたくいえば、作らないことを意識している。でも、逆にいえば作らないことを作ってしまうとダメ。自然な状態になるならいいけど、あえて作ってしまったらちょっと違うと思うんで。
その辺を「今俺作っちゃってるな…」と意識するようにしてます。
ーーー今後の活動や、計画していることはありますか?
受け身の人生ですが、一番出たいのは、クリント・イーストウッド監督の映画です(笑)。
ーーー最新作『クライ・マッチョ』が公開されましたね。ではクリントイーストウッド監督から声がかかれば?
ノーギャラで出ます。他はギャラ下さい(爆笑)。まあ、イーストウッド監督本人から声がかかることはないと思いますけど…。
撮影の雰囲気や舞台
ーーー撮影の雰囲気はどうでしたか?
めっちゃ楽しかったですね。人生で1、2位に入る楽しさだった。まず映画に出るのが初だったから、何でも初めてっていうのがあります。刺激的だったよね。今までに経験ないことばっかりだったので。
スタッフさんも、カメラ・照明・音響、楽屋ではヘアメイクさんとか衣装さん、こんなにいっぱいの人が動いて、色んな人が関わってんだなあと感動でした。
役者さんたちも、撮影してる時は役に入ってるけど、楽屋に行くと素になる。これが、面白いんだよ。繋がりもいっぱいできたしね。特に、現代ストーリーの方に登場するジジイバンド役の人たちとはめっちゃ仲良しになりました。
ーーーミラクルシティコザの撮影期間が1ヶ月弱だったということですが、特に問題なくスムーズに進んだのですか?
素の演技を求められたこともあり、役者としては自分は何の問題もなかったですね。まあスタッフ・クルーは色々苦労があったと思いますけど。
ーーー小池さんが出てるシーン以外で何かトラブルなどはありましたか?
いや、聞いてないですね。特にないと思います。まあ、撮影クルーやスタッフが大変だったと思う。朝早くから夜遅くまで、ライブのシーンにしたって照明から何からみんなセットするので、本当のライブみたく撮ってるから。すごかったよ。あんなライブできたら最高だな。
ーーーライブシーンの撮影場所はどこでしたか?
音市場(沖縄市(旧コザ))の屋外ステージや、ライブハウス・セブンスヘブン(ジョージ紫の息子・レイが経営)です。
ーーー撮影場所はコザ(現在の沖縄市)が多かったですか?
ほぼコザですね。あとちょっと海のシーンがあるんで、それは恩納村かな。
よくある沖縄を題材とした映画で使われるようなザ・沖縄的な場所はあまり出てこないです。青い海や空、そういうシーンはほとんどない。
ーーーあくまで1970年代の、ベトナム戦争へ行くアメリカ兵に揉まれていた当時のコザらしい場所をセレクトしたということですね。
コザのロケハンで1970年代当時の面影が残っているところを見つけて、そこをバックに撮影したシーンが多かったです。裏路地とか。
ーーー当時のコザの雰囲気を感じられる面でも価値がありますね。
主演・桐谷健太さん/平一紘監督の話
ーーー小池さんは主演の桐谷健太さんとは、同じハルというキャラクターの現在と過去を演じているということですが、どんな印象でしたか?
イケメンですね。顔もきれいだし、性格もいいし、親分肌っつーか兄貴肌なんだよね。だからスタッフも俳優もみんな彼を慕ってました。面倒見もいいし、フレンドリー。それが一番の印象です。あとはやっぱり関西人だから、こっちが冗談言うと、冗談を返してくれます。
演技に対しては、すごく熱いです。だから平監督と随分話して、相談して作ってたもん。「ここはこうした方がいいんじゃない?」とか。
ーーードラマや映画で見るキャラクターとイメージがピッタリ重なりますね。
そのまんまですね。まず現場にいる全員分のスタッフTシャツ作ってきてくれたもんね。クルーと役者たちの。
なんかよく映画の中の映画のシーンとかだと、有名役者って椅子にふんぞりかえっているイメージだけど、全然そんな感じなくて。ただ、顔合わせの自己紹介で桐谷さんに下ネタ振ったら引かれましたけどね(笑)。平監督に止められました。
ーーー 続いて、平一紘監督についてですが、ざっくりどんな撮影スタイルですか?
平監督の中では多分、ヴィジョンが全部出来上がっているんですよね。台本を中心には進めていくけど、現場主義で、セリフも撮影中にカットになったりします。インスピレーション重視の監督だと思います。応用が効くというか、色んなこと考えてる。
まあ、付き合いがそこまで長いわけではないですが、映画撮ってても、プライベートでご飯食べてても、一生懸命さが伝わってくる。一生懸命しゃべるし、よく動きます。
映画・本編に収まりきらなかったシーン
ーーー『ミラクルシティコザ』の撮影で何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。
俺自身の話でいえば、映画でハルの孫・翔太(津波⻯⽃・演)がまだ小学生ぐらいのときの、時系列的に現代から数年前のシーンがあったんだけど、ほとんどカットなんですよ。
ーーーえっ?
いいシーンで思い出には一番残ってるんだけど、映画には少ししか入っていないです。もろもろの都合でカットになりました(笑)。でもまあ、とにかく孫役の子がとってもかわいかったですね。撮影中、その横でタバコを巻いてるだけなのに、共演者やスタッフからマリファナを巻いていると思われたという、教育に悪いエピソードがありました(笑)。
ーーーディレクターズカット版では孫とのふれ合いのシーンも入っているといいですね。
DVDの発売を待ってください(笑)。未鑑賞映画大賞を撮ったときには、孫と戯れるシーンが入ってたんですけどね(笑)。
あとはオーシャンっていう地元で有名なタコス屋さんを貸し切って、自分がドラム叩いてお客さんたちに入ってもらって踊って盛り上がるシーンも、尺の都合でカットでしたね。
ーーー他に何かエピソードはありますか?
飯が毎回うまかったですよ。ロケ弁は必ず沖縄市(旧コザ)のどこかから仕入れてくれていて。地域に貢献するためにここでもなるべく沖縄市を使おうということらしいです。
ーーー最後に映画『ミラクルシティコザ』を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。
平監督もそうだと思うんだけど、自分らは自分らでメッセージ持って作ってるけど。それを敢えて口にしてしまうと、みんなそういう目で見ちゃうから。
フラットな目線で見てもらえたら嬉しいと思ってます。それでみんながどう感じたか、そこがやっぱり一番自分の興味のあるところなので。ぜひ劇場に観にきて判断してください!
おまけ:パイロット版について
ーーーパイロット版と本編で音楽なども一新されたようですね。
パイロット版作成したときは他のバンドが主題歌を担当する予定でした。ライブシーンを撮影したり、そのバンドがコザ・音市場でライブしたときは、乱入して撮影したりしました。お客さんたちに、「じじいが1人出てくるので、みんな拍手してください!」って強引に言って(笑)。
ーーー映画版ではオレンジレンジが主題歌「エバーグリーン」担当になりました。
そうそう。オレンジレンジの楽曲も映画の雰囲気にピッタリでしたね。
ーーー本日はインタビューにお答えいただきありがとうございました。
ありがとうございました。映画『ミラクルシティコザ』をぜひ劇場に観に来て下さい!