映画『渇水』
ストーリー考察:水のような匂いの男の意味、本作が伝えたい事
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
視聴してのぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
※以下、映画『渇水』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『渇水』考察:水のような匂いの男が滝を見て悟ったこと
岩切俊作(生田斗真)は自分は流されて生きてきたと悟る。姉妹の母・有希(門脇麦)は岩切を水のような匂いの男と嘲笑った。水道局に入ったのもなんとなくだった。
そんな岩切は大自然の滝を見て何かを悟ったようだった。彼は自然界の水は決して止まらないと気づいたのだと思う。水は止まらないでサイクルを続ける。止まるとにごってしまう。有希が言った水のような匂いとは、正確には止まってしまってよどんだ水の匂いなのだろう。
いっぽうで自分の仕事は水を止めること。水のように流されて生きているかと思いきや、実は水を止めるという不自然な仕事をしていたわけだ。そこで水を止めてはいけない!と悟ったのだと思う。
岩切は人の家庭の水を止めながら、自分の心の流れも止めていたのだろう。その鬱屈が解放された公園での姉妹との水遊びのシーンは素晴らしい。自分の心のよどみを勢いのよい水の流れで解放し、その流れに引きつけられるように妻子も戻ってきた。
あと、本作には水は一体だれのもの?というテーマもあった。江戸時代にすでに江戸の街では水道料金なるものが徴収されたらしい(石や木の水道管から各場所の井戸へ水を送っていた)。
ただ、大きな街以外は川の水などを使う分にはいちいち料金など徴収しなかっただろう。京都や滋賀県の水源が豊かな土地では、現在も川から水路を使って家に引き込んで生活用水として使っている。
水が豊かな日本では本来は水道料金はタダ当然だったのかもしれない。
しかし本作で言いたいのは、だから水道料金をタダにしろ!というものではなく、人が水に触れるのを奪う権利はだれにもない!ということだと思う。
確かに現在は水道局の管理がなければ水道は使えない。だからといって水を強制的に止めてもいいのか?という微妙なラインをついた映画である。
恵子と久美子姉妹のような育児放棄家庭の場合、水を止められたら最悪死んでしまう。水が太陽や空気と同列に語られていたが、電気とはもう1段レベルが違うものなのかもしれない。
金を払わないからといってだれかの生きる権利を止めてもいいのか?そんな問いかけがあった。
『渇水』ネタバレ・ラスト結末解説
群馬県では猛暑により水不足が発生。市民プールなどの営業も停止されていた。
水道局員の岩切俊作(生田斗真)は料金未払いの家をまわり、払えないという住民の目の前で部下の木田拓次(磯村勇斗)に停水執行を命じる。
岩切と木田は小出有希(門脇麦)の家に行く、船乗りだった夫は失踪したようで、有希はマッチングアプリで男を釣って金を得ていた。
有希が水道料金を払えないというので、岩切は水道を止めようとする。しかしそこに有希の娘たち、姉・恵子と妹・久美子が帰ってきた。岩切と木田は1週間の猶予を持つことにする。
岩切は父親と不仲だった。そのせいで岩切は息子の崇にどう接していいかわからなくなり、それが妻・和美にも気づかれて2人は実家に帰ってしまっていた。
1週間後、岩切と木田は再び小出有希の家へ。娘の恵子と久美子しかいなかった。岩切と木田はバケツなどに水を貯めさせたあとで仕方なく水道を止める。
その後、岩切がふたたびたずねてみると小出有希は男をつくって出て行こうとしている。岩切が子供はどうするんだ?というと有希は岩切の匂いをかぎ「蒸発した夫と一緒で水の匂いがする」と言って去っていった。
木田は恋人の妊娠を聞かされ、身を固める時期だと悟った。
恵子と久美子は水も食料も電気も無い状態で暮らしていくしかなく、夜になると公園や近所の家の外蛇口から水を持ち帰った。
しかし公園の水も止められてしまう。恵子はスーパーで万引きするようになった。
岩切は妻・和美の実家をたずねるが、息子の崇にもつれない態度を取られ、和美にも帰れと言われる。
岩切はスーパーで万引きして店員に捕まった恵子を発見。金を渡そうとするが、恵子は施しはいらないと財布を叩きつける。
岩切は「初めて流れを変えたくなった…」と言って恵子たちの家の水道栓を開け、公園の水道栓も開けて3人でホースで水浴びをした。虹が見える。
そのあと木田たち水道局のスタッフがやってきて岩切を押さえつける。恵子たちも職員につかみかかるが木田に押さえられた。そのとき、雨がふった。岩切と恵子の涙と雨が混じる。
岩切は警察に捕まるが、水道局は起訴しないことにした。警察は児童相談所に保護された恵子と久美子の居場所は教えられないと言う。
岩切は水道局を辞めることになる。木田は淋しがった。机の上に恵子と久美子が飼っていた金魚鉢と手紙と、一緒に水浴びした絵が置いてあった。
家の縁側に座る岩切、「息子の崇から海に行きたい!」と電話がかかってくる。
映画『渇水』終わり
映画『渇水』ネタバレ感想・評価
ラストで岩切俊作が公園ではっちゃけるシーンは感動。止まっていた心と水道管が一気に動き出す美しい場面だった。
逆にいうとラスト以外に起伏が乏しすぎて、若干退屈もあった。きっと小説でそれぞれのシーンを繊細に感じ取るぶんには面白い物語なのだろう。
映画にするならタルコフスキーの『ノスタルジア』のように、もっと水の流れや風景描写で魅せてもよかったかもしれない。
あとは、宮藤官九郎や宮世琉弥など水道を払わない家庭についてもっと掘り下げもよかったと思う。小出姉妹が水道を止められたら最悪なのはわかるのだけれど、他の人にもそれなりに事情はあるだろうし、それをサラッとでも描いたほうがよかった気もする。
まあ脇役の事情まで描く時間はなかったとしても、岩切の妻と息子はもう少し登場してもよかったのではないか?
良いテーマで感動もあったが、やや薄味な作品だった。
映画『渇水』作品情報
上映時間:1時間40分
ジャンル:ヒューマンドラマ
年齢制限:P12
監督:高橋正弥
脚本:及川章太郎
原作:河林満「渇水」
ここまで読んでいただきありがとうございます。『渇水』レビュー終わり!
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