『仮面ライダー ブラックサン』ネタバレ考察!最終話がひどい?あさま山荘事件,賛否両論は左翼思想?

  • 2022年11月2日

賛否両論の社会派グロドラマ『仮面ライダーブラックサン』(BLACK SUN)の内容についてネタバレ有りで徹底考察しています。

主に人種問題あさま山荘事件や極左運動最終話の葵の決断の意味賛否両論やひどいと言われる理由についてです。

断り書きですが、制作陣の思想まで憶測してしまうと、本作は「左翼の活動を美徳化したもの」という矮小なメッセージに落ち着いてしまい、物語から得られるものが少なくなってしまいます。

そもそも制作陣は政治的な思想を入れ込みたいというよりは問題提起をしたいだけかもしれません。

なので考察・解説については一旦制作サイドの思想云々はわきに置いて、左翼思想の話は賛否両論の項目で書きます

(『仮面ライダーブラックサン』のストーリーのあらすじ解説・各話感想が知りたい人は下記記事へ)

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『仮面ライダー ブラックサン』メッセージ解説

人種差別反対

『仮面ライダーブラックサン』の1番大きなメッセージが人種差別でしょう。在日朝鮮人や移民問題など現実にそくした被差別民が“怪人”に置き換えられています。

置き換えによって問題のデフォルメが起こり、①身体的な特徴による分断はより深く、②視覚的にはよりわかりやすく、③解決はより難しいものとなりました。

人種が異なるのではなく、人間と怪人を知性を持つ異種同士とすることで対立の構図がより鋭くなっています。

臭いによる問題提起

加えて怪人は“臭い”と表現されています。

ポン・ジュノ監督の『パラサイト半地下の家族』では、映像では伝わらない臭いにフォーカスしていたことで格差社会を表現していましたが、本作でも同じコンセプトを採用しています。

臭いが持つ問題提起力は強いです。

現実の日本社会でも「体臭・口臭は抑えるべき」とされていますよね。

では常人の何倍も体臭がある人が学校や会社にいたらどうなるでしょう。差別の心はなくても顔に出てしまったり、慣れるまでは一緒にいるのが大変かもしれません。

いろんな問題が汲み取れますが、私たちの誰もが差別加害者になり得るというメッセージを孕んでいるのだと思います。

黒人差別(Black Lives Matter)

第一話ではデモでハエ怪人が警官に射殺されていましたが、これはアメリカで頻繁に起きる白人警官による黒人射殺の事件がトレースされているようです。

2020年5月にミネソタ州で黒人のジョージ・フロイドさんが警官に不当に押さえつけられて死亡した事件が発端となり、アメリカではBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター/黒人の命を尊重せよ)という運動が世界中で広がっています。

現実の人種差別の問題も踏まえ、『仮面ライダーブラックサン』では怪人≒ 黒人という表現が多々あったと感じました。

人種差別の問題について多視点で問題提起した本作ですが、解決については読者に投げられるかたちの結末でした。

あさま山荘事件

『仮面ライダーブラックサン』の昭和パートは1972年でした。あさま山荘事件が起こった年と一緒です。

あさま山荘事件とは、連合赤軍5名が軽井沢のあさま山荘に立て篭もって銃撃戦が発生し、メンバー5人が逮捕されるまでに警察と民間人の3名の命が失われるきっかけになった事件です。

あさま山荘事件を引き起こすきっかけとなったのが山岳ベース事件

連合赤軍が群馬県の山岳ベースで共同生活するうちに、“革命戦士の資質がない”と判断されたメンバーをリンチして10名以上が死亡。生き残って警察に終われたメンバー5人が、あさま山荘に籠城したのです。

『仮面ライダーブラックサン』でも1972年にゴルゴムのメンバーが仲違い(内ゲバ/内輪揉め)して殺し合う過程が凄惨に描かれており、連合赤軍など極左の実際の事件をモチーフにしていると考えられます。

つまり西島秀俊演じる南光太郎は、社会活動に挫折して生きる希望を失った“左翼崩れのおっさん”なのです。

本作は差別撤廃の理想を求めていたのに、仲間同士で殺し合う最悪な結末を迎えてしまう人間の不条理さを突きつけていたのではないでしょうか。

とはいえ南光太郎や秋月信彦の活動については、全く無駄だったとは描かれず、魂や信念は葵に引き継がれています。

『仮面ライダー ブラックサン』考察(ネタバレ)

最終話がひどい?ラストの意味

カマキリ怪人に改造された葵はラストで創世王になったブラックサンを殺します。

葵はブラックサンの戦う魂を継承し、子供たちを集めて軍事訓練をさせています。鯨と蚤怪人も一緒です。

つまりリベラルな革命軍を運営しているわけです。

第一話で葵は「人間も怪人も命の重さは地球以上。1gだって違いはない…」と国際会議でスピーチしていましたが、その信念とは真逆の方向へ行ってしまったとも捉えられるでしょう。

ただ、葵が革命軍を組織するという決断はある種の現実を突きつけているとも解釈できます。

例えば現実の日本でも2022年7月に安倍元総理が銃殺事件が起きました。

安倍元総理が銃殺された事件は大変痛ましいものですが、この事件がなければ旧統一教会が自民党とズブズブだったと明るみに出ないまま被害者が増え続けていったことでしょう。

旧統一教会の問題を選挙や平和的な活動で劇的にどうにかするのは難しかったと思います。

ある種の社会システムが固く動かなくなってしまった場合、選挙などで平和的な解決が難しい場合も現実問題としてあるのです。

時間をかけて熱心にやれば暴力を使わなくてもどうにかなる!と思うかもしれませんが、その間に誰かが犠牲になり続けます。

『仮面ライダーブラックサン』は、暴力はよくないけど、理想とする社会を目指すためには他に方法がないという現実社会のタブーに触れた結末にしたのだと思います。

葵が革命軍を組織するのも、平和的な解決を望んでいるのに軍事転覆を狙うひどいラストというより、答えのないジレンマを提示していたように思えました。

ゆかりはスパイだった?

堂波総理の発言によって、ゆかりは当時の総理大臣(堂波道之助)が送り込んだスパイだったことが発覚します。

この事実を知って秋月信彦は絶望するわけですが、最終話でブラックサンが言ったようにゆかりの信念自体は本物だったのでしょう(じゃないと救いがなさすぎです…)。

『仮面ライダー ブラックサン』ひどい内容で賛否両論?左翼思想?

『仮面ライダーブラックサン』が賛否両論になってしまった理由は、ヒーロー作品としての側面と社会派の側面のバランス感覚が独特だったからでしょう。

リアルな社会問題を突きつけているわりに、ストーリー展開は従来の仮面ライダーと同じくリアリティライン低めなので混乱するのだと思います。

例えば中村倫也さん演じる秋月信彦は50年間牢獄にいたくせに、気が狂うことはなかったのか?とか、

平和的な革命指導者だったオリバー・ジョンソンの息子・ニックが葵を裏切ったり、コオロギ怪人になったりするノリが軽すぎたのも、他のシリアスな場面と比較して明らかに変です。

個人的にはさまざまな違和感が逆に味わい深くカルトの傑作という印象でしたが、好みや価値観によってはひどいと感じたかもしれません。

あとはやっぱり、左翼思想や社会活動をモチーフにしたようなストーリーが受け付けないという人も多かったのでは?

個人的には左翼の活動がフューチャーされたというより悲劇として描かれていたので政治的な思想・メッセージが大きなノイズにはなりませんでした。

「50年前のあの頃は良かった」ではなく、ゴルゴムの醜い内ゲバとして表現されていたので、差別撤廃などリベラルな思想はあるにしても、左翼思想を賛美していたとは言えないと思います。

ただ、左翼崩れのおっさんたちがが仮面ライダーブラックサンとシャドームーンになるという設定だけみれば、確立した政治思想を持つ人ほど受け入れがたいかもしれません。