映画『はい、泳げません』は期待以上の感動傑作でした!長谷川博己と綾瀬はるかのW主演です。幼少期に溺れたトラウマを持つ哲学者が水泳を習うハートフルなストーリー。
原作未読の筆者が映画を全力でレビューしていきます。
作品情報・キャスト・あらすじ・見どころ、ぶっちゃけ感想・評価・感動の構造、鍵となる小鳥遊とコーチの関係性・脱ニヒリズムやメタ的な考察、ストーリー結末ネタバレ解説を知りたい人向けに徹底レビュー!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目からどうぞ)
作品についての視聴者・口コミアンケートも投票お願いします↓
ジャンル:ヒューマンドラマ・コメディ
監督・脚本:渡辺謙作
原作:髙橋秀実エッセー「はい、泳げません」
撮影:笠松則通
主題歌:Little Glee Monster の「magic」「生きなくちゃ」
製作・制作:「はい、泳げません」製作委員会・リトルモア
映画『はい、泳げません』あらすじ(ネタバレなし)
©︎「はい、泳げません」製作委員会
ある事件がきっかけで5年前に妻・美弥子と別れた大学の哲学教授・小鳥遊。幼い頃に叔父に海に投げ込まれて溺れた経験を持つ彼は、トラウマを克服しようとスイミングスクールへ。
コーチの薄原静香がプールに入るところから始めようと言うが、おばさん生徒たちに押されてプールに落ちた小鳥遊はパニックに。
水に顔をつけ、だんだんと慣れていくにつれ、小鳥遊は過去と向き合い始めるのだが…。
ネタバレなし感想・見どころ
予告やチラシの感じだと笑えてちょっと心が温まるくらいの作品だと思ってしまいそうですが、個人的には2022年公開作の中でも絶対に見るべき名作だと思いました。
人間ドラマはリアリティたっぷりで非常に深く、水を克服する意味が幾重にも折り重なるディープな物語へ発展していくのです。
すべての人が人生に必要な気づきを得られる作品。ただ予告や宣伝でコメディ寄りの作品だと勘違いされそうなのが心配です。
おすすめ度 | 95% |
メッセージ性・感動 | 97% |
ストーリー | 87% |
filmarks | 3.5(10点中) |
※以下、映画『はい、泳げません』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『はい、泳げません』ネタバレ感想・評価
ひょんなことから水泳教室に通うという宣伝だったので軽いノリなのかと思い、実際前半はかなり軽快なコメディだったのですが、後半になるとその裏に息子を失ったという想像を絶するトラウマが判明し、主人公・小鳥遊の想いや生き様に心を強く揺さぶられました。
論理を超えた感動!
考えなくても十分楽しめる『はい、泳げません』ですが、個人的には小鳥遊のような哲学者になったつもりで深く考えながら見るとより物語に没入できると思いました。
それと同時に考えて出せる答え以上の、論理を超えた感動を与えてくれたのが本作です。
元妻と死んだ息子、現恋人・奈美恵と息子、水泳コーチとの関係という3つの軸がありストーリーは複雑。ここに大学の生徒との関係もあります。
小鳥遊がどうやって息子を失ったトラウマを克服して前に進んだかを言葉で説明するのは非常に難しいです。
たとえ説明できたとしても、彼の行動や周囲との関係性を見つめる以上の真理はそこにないでしょう。
また、水自体が羊水、息子が溺れた川、地上とは違う世界、困難や災難など幾重の意味を孕んでいるため、何重にも解釈できる作品でもあります。
水に投げ込まれる視聴者
序盤では小鳥遊が息子を川で死なせてしまったということがわからずノリが軽いため、小鳥遊は自分を成長させたいから水泳教室に通い始めたのだと思わされます。
息子は元妻・美弥子といるのか?と勘違いさせられるのです。
そこからプールで泳いでいる最中に過去のトラウマがフラッシュバックし、川辺で叫んでいる美弥子の回想が差し込まれます。事故があったことがわかり、だんだんと息子が死んでしまったことがわかるつくりです。
小鳥遊は自分のトラウマを克服したかったのではなく、息子の存在や彼を失った時の記憶を求めて水泳教室に通い始めたんですね。
サスペンス的な驚きもありますし、軽快な前半とトラウマに向き合う後半の対比でストーリーが一気にディープになる構造が素晴らしい。
見ていたら急に物語が深くさを増し、溺れるイメージですね。
見ているこちらが水に投げ込まるようでした。
プールで溺れる小鳥遊と視聴者の心がシンクロするような非常に素晴らしい構造です。
小鳥遊は息子が心の中に生き続けていると感じ、元妻・美弥子に産んでくれてありがとうと言い、前に進むことができました。
結論は当たり前ですが、過程を含めると超感動のラスト。
小鳥遊だけでなく、誰もが過去に取り返しのつかない失敗やトラウマを抱えています。
どうやってやり直すのか?
心のリハビリの過程を丁寧に提示してくれたのが『はい、泳げません』なのです。
考察:脱ニヒリズムと希望・逆対称の関係性
哲学的な意義のあるストーリー
主人公小鳥遊が哲学者でしたが、哲学用語はニーチェのニヒリズム(何事にも意味がないとする虚無主義)くらいしか出てきませんでした。
しかしストーリーは全体として非常に哲学的。
現実社会ではコロナやロシアのウクライナ侵攻、不景気もあいまって日本も世界もニーチェのニヒリズムに近い考え方に覆われているかのような昨今。
黒人の差別問題やアメリカの銃乱射事件、多様性についての相容れない議論など、他人と真に心を通わせる生き方も難しいように感じてしまいます。
そんな中で『はい、泳げません』はトラウマ克服をリアリティたっぷりに描き、人は希望の方向へ泳いでいけるのだとしっかり示していて意義深かったです。
難しい用語を出さなくても哲学的にポスト・ニヒリズム、脱ニヒリズムを提示しているよう。感動ももらえて人生にも役立つ素敵な作品でした。
綾瀬はるか演じる薄原静香の母的役割
綾瀬はるかさん演じる水泳コーチの薄原静香のストーリー上の役割が非常に印象的でした。
中年男性と美人コーチ。恋がはじまるような予感がしますが、薄原静香は恋人でなく母親の役割を担っているのでしょう。
薄原静香は泳げない小鳥遊に向かって、昔はみんな水の中にいたと言い厳しく指導。
ラストでは息子を失った小鳥遊を水中で抱きしめます。
彼女が以前交通事故に遭い骨盤を骨折してまた水泳を始めたというのも、どこか出産や生まれ変わりのメタファーのよう。
かりに事故によって出産ができないとしても(劇中では実際のところはわかりませんが)、水泳を通じて誰かの人生を育てたいという願いに繋がっています。
小鳥遊と薄原が安易に恋愛関係になるのではなく、年齢は小鳥遊の方が上なのに親子的な興味深い関係性に深く考えさせられ、感動しました。
ペンギンというメタファー
スイミングスクールの受付にはペンギンの人形があり、薄原静香自身も「ペンギンは水の中ではイキイキしているけど、陸では力んで不器用に歩いている」と言っていました。
交通事故のトラウマで道をひょこひょこ歩く薄原からは少しコミカル過ぎる印象も受けますが、ペンギンの動きがイメージされているのでしょう。
小鳥遊という苗字には“小鳥”があり、ペンギンと小鳥という鳥同士の対比もあります。
関係性の変換・メビウスの輪
さらに終盤では小鳥遊のアパートまでやってきて薄原は、プールのような威圧感はなく少女のような印象もありました。
哲学でいうと構造主義的な解説になりますが、陸上と水中で小鳥遊と薄原の関係性が対角線上に逆転していて面白いです。
- 水中では薄原が親、小鳥遊が子供。
- 陸では薄原が子供、小鳥遊が親
- 小鳥遊が子を失ったのは現実、薄原は暗喩
という捉えかたもできます。
対称に加えて表裏一体性もあり、メビウスの輪のような関係性です。
さらに元妻や恋人も含め、ストーリーは構造的にかなり複雑。
しかしだからこそ、奥深い感動があるのでしょう。
映画『はい、泳げません』ネタバレあらすじ結末解説
中盤
小鳥遊は道路でビクビクしながら歩いている薄原コーチを発見。理由を尋ねると以前交通事故に遭って骨盤を骨折し、リハビリでプールを再開したのだという。
小鳥遊は息継ぎができるようになり、高いハードルをクリアしたことに意気揚々とする。どこからか息子の声が聞こえてきた。
5年前に川に遊びに行ったときに6歳の息子が流され、小鳥遊は助けに川に入ったが泳げなかったために岩に当たって気絶。息子は死んでしまったのだ。
小鳥遊はそのときのことを上手く思い出せなかった。
元妻・美弥子は小鳥遊が現実を受け止められず一緒に泣いてくれなかったので別れたのだ。
プールで溺れた小鳥遊は薄原コーチに助けられるが、絶望感に襲われ恋人・奈美恵に別れを告げる。
息子の思い出が残る部屋も売ってしまうことにした。
ラスト
奈美恵から息子を預かってほしいと頼まれた小鳥遊。海へいくが水には絶対近づくなと注意した。
夜、奈美恵は薄原コーチが待っていると言う。
翌日、小鳥遊はプールへ向かった。薄原と一緒にプールに入って泳ぐ。あのとき川で息子が自分を呼んだ声が聞こえる。
薄原は小鳥遊を抱きしめる。小鳥遊は水の中で大声で泣いた。
小鳥遊は元妻・美弥子に会い息子を産んでくれてありがとうという。2人は一緒に泣いた。
小鳥遊は奈美恵に謝り、家族になろうと言う。
スイミングスクールでは、はい 泳げますと元気な声で叫んだ。
映画『はい、泳げません』作品情報・キャストと演技の印象
『はい、泳げません』登場キャラ・キャスト
小鳥遊雄司(たかなしゆうじ/泳げない哲学者)|cast 長谷川博己→前半はコミカルすぎると思いきや、後半はガラッと雰囲気が変わり感動させられました。ちなみに小鳥遊という珍しい苗字は「小鳥が遊ぶ場所には鷹がいない→たかなし」という起源があるそうです。
薄原静香(うすはらしずか/水泳の先生)|cast 綾瀬はるか→不思議なオーラを持っている綾瀬さんは役柄にぴったりだったと思います。多面的な解釈ができる本作で絶妙なキャスティングでした。
奈美恵(雄司の彼女)|cast 阿部純子
美弥子(雄司の元妻)|cast 麻生久美子
鴨下(心理学部の教授)|cast小林薫
笹木ひばり(水泳教室の生徒) |cast 伊佐山ひろ子
葦野敦子(水泳教室の生徒) |cast 広岡由里子
橘優子(水泳教室の生徒) |cast 占部房子
英舞(水泳教室の生徒) |cast 上原奈美
最後のまとめ
映画『はい、泳げません』は、軽いノリのハートフルコメディに見せかけて非常に深い学びのある感動作でした。
チラシの内容とは違うので宣伝が上手くいっているか不安ですが、ヒットしてほしいですね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『はい、泳げません』レビュー終わり!
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