『007カジノロワイヤル』ポーカーシーン解説,ヴェスパーとの心理戦考察・感想レビュー【映画ネタバレあり】

  • 2024年1月28日

映画『007カジノロワイヤル』(Casino Royale)は、ダニエル・クレイグが旧来のジェームズ・ボンドの型を破った冷徹さを見せ、一番の山場は1億ドル以上を賭けたポーカー対決

本作の感想レビューポーカー(テキサスホールデム)のルール

カジノシーンの見どころや、ボンドとヴェスパーの勝負の観点を考察をまとめました。

(記事には『007カジノロワイヤル』の一部ネタバレ)

映画『007カジノロワイヤル』キャスト・作品情報・あらすじ

公開・上映時間:2006年・144分
原題:『Casino Royale』
監督マーティン・キャンベル
脚本ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド/ポール・ハギス
原作:イアン・フレミング小説『カジノ・ロワイヤル』(1953)
撮影:フィル・メヒュー
主題歌クリス・コーネル「You Know My Name」
主演:ダニエル・クレイグ
出演:エヴァ・グリーン、マッツ・ミケルセン、ジャンカルロ・ジャンニーニ、カテリーナ・ムリーノ

あらすじ(ネタバレなし)

イギリス秘密情報部(MI6)の殺しのライセンス00を得たボンドはマダガスカルに出向き、テロリスト集団の軍資金を用立てる投資銀行家ル・シッフルとの関連を突き止める。

ル・シッフルはスカイフリート社の株の空売りを仕込んだ上で大型旅客機を爆破させ巨額の資金を得ようと企んでいたがボンドの妨害にあい1億ドルを失う。

損失を取り返すためル・シッフルはモンテネグロのカジノロワイヤルにて、高額ポーカートーナメントを開催。

MI6はル・シッフルの背後にあるテロリスト集団を明らかにし、その資金源を断つことを目的にボンドをカジノロワイヤルに送り込むが…。

おすすめ度 90%
アクション 90%
ストーリー 90%
IMDb(海外レビューサイト) 8.0(10点中)
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) 批評家94% 一般90%

カジノロワイヤルを見る前に知っておきたいポーカールール

5枚のカードでハンド(役)をつくりその強さで競うポーカー。

数字はAが最も強く, K, Q, J, 10, 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, の順で2が最も弱くなります。

ハンド(役)は強い順にロイヤルフラッシュ、ストレートフラッシュ、フォーオブアカインド、フルハウス、フラッシュ、ストレート、スリーオブアカインド、ツーペア、ワンペア、ハイカード(ノーペア=役なし)となり、同じハンド同士では構成する数字の強い方が上位となります。

テキサスホールデムとは?

『カジノロワイヤル』で行われるテキサスホールデムは現在最もプレイされているポーカーのルールです。
プレイヤーの手札はホールカードと呼ばれる2枚のみ。場の中央にプレイヤー共通のコミュニティカードが最大5枚置かれ、それぞれの手札との組み合わせでの強さを競います。
〈ラウンド1ープリフロップ〉
まずテーブルのポジション(席順)が決められ、手札が2枚ずつ配られます。「親」の位置であるディーラー・ボタン(ゲームのディーラーとは別)から時計回りにスモールブラインド、ビッグブラインドと呼ばれビッグブラインドはテーブルで決められた最低ベット額を、スモールブラインドはその半額を強制的にベットしなければなりません。

ここでは自分の2枚の手札だけを見て順番にゲームを続けるかどうか決断していきます。同額をベットして続ける場合はコール、降りる場合はフォールド、賭け金を上げる場合はレイズします。その後ゲーム続行者が同額の賭け金をポットに出したら、次のラウンドへと進みます。
〈ラウンド2ーフロップ〉
ディーラーがテーブルの中央に3枚のコミュニティカードを表向きに置きます。

ここでそれぞれのプレイヤーは2枚の手札との組み合わせで作れる役の可能性を見ます。スモールブラインドから順にコール、レイズ、フォールドの選択をしますが、他のプレイヤーの出方を見るチェック、
すべてのチップを賭けるオールインもあります。すべてのプレイヤーがオールインした場合はここでショーダウン(手札の公開)となります。

ラウンド3(ターン)では4枚目のコミュニティカード、ラウンド4(リバー)では5枚目のコミュニティーカードが置かれます。
各ラウンドで賭け金も上がっていき、最後に残ったプレイヤーの中で最も強いハンドを作った人がポットの賞金をすべて獲得することができます。

カジノロワイヤルでのポーカーシーン

クローズアップも多く、それぞれの人物の表情やしぐさがじっくり撮られています。BGMやセリフも控えめで静かな場面ですが、細部や心理戦の駆け引きがよく描かれています。マッツ・ミケルセンのル・シッフルははまり役。悪役ぶりが素晴らしいですが、ポーカーシーンでは喜怒哀楽の表情、チップ回し、表情などに注目です。
カジノシーンのディーラーは本職のディーラーとのことで、ゲーム進行にもリアリティがあります。プロのカードさばきはほれぼれするほど鮮やかです。

※以下、映画『007カジノロワイヤル』のストーリーネタバレありなので注意してください!

ボンドはどうやって勝ったのか?【ネタバレあり】

1千万ドルもの参加費、賭け金も巨額のカジノロワイヤル。資金係としてFATF(金融活動部)のヴェスパー・リンドが派遣されます。後に恋に落ちるボンドとヴェスパーですが初対面のシーンでは遠慮なく言い合いお互いを探り合います。「ポーカーは運任せではなく確率の問題なの」、と聞くヴェスパーに対しボンドは「ポーカーの勝算は自分の手札ではなく相手の心理を見抜くことにある」と。相手の心が読めるのか、と尋ねるヴェスパーに「読める」と自信たっぷりに答えるボンドですが…。

ポーカーの天才、ル・シッフルのテル

最初の顔合わせのゲームでル・シッフルが左目のあたりを触る仕草から、テルを見抜いたと話すボンド。テル(Tell)とはポーカーにおいて、自分の持っている手札についてヒントを与えてしまうようなボディランゲージやふるまいのこと。弱いハンドを隠すためにわざとアイコンタクトをする、前のめりになる、チップの置き方が変わる、など様々な癖となって現れます。ボンドはル・シッフルがブラフ(はったり)を隠していると言います。にもかかわらずフルハウスのル・シッフルに対しフォールドしゲームを降りて100万ドル負けます。ここでボンドが降りた理由は?ル・シッフルよりも本当に弱いハンドだったのか?疑問が残ります。

ル・シッフルの罠

ル・シッフルがはったりをかけていると読んでいたボンドですが、このときのブラフは演技でした。ル・シッフルがスリージャックで勝ちボンドは2ゲーム続けて負け、1億4000万ドルの賭け金を失います。ヴェスパーから資金の追加を拒まれますが、CIA覆面捜査員のフェリックスから500万ドルを得ることでゲームの続行が可能になります。

ボンドの大逆転

脅威を感じたル・シッフルはボンドを毒殺しようとしますが、ヴェスパーの助けで危機一髪心停止を免れゲームに戻ります。
ボンドがオールインという強気なアクションに出るとル・シッフルも動揺を隠せません。一方余裕の表情を浮かべているボンド。
1億ドル(100億以上)を超えた額がポットにあり、すべてのプレイヤーの緊張がピークに達したところでショーダウン。
ル・シッフルはフルハウスとかなりいい手を出しますが、ボンドはストレートフラッシュ(8-7-6-5-4)で鮮やかに勝利します。ル・シッフルは惨敗、ボンドは1億1500万ドルの賞金を手にし任務を果たしたかのように思えますが、あっと驚く展開が待ち受けていて、最後まで目が離せません。

映画『007カジノロワイヤル』ネタバレ感想・評価

映画『007カジノロワイヤル』のポーカー(テキサスホールデム)のポスター

©︎ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

ダニエル・クレイグが6代目ジェームズボンドに起用された最初の007シリーズ『カジノロワイヤル』。

イアン・フレミングの小説007シリーズの一作目を比較的忠実に映画化しており、ボンドの原点回帰作ともいえます。

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クレイグ自らもスタントに関わったアクロバティックなパルクールのシーンやカーアクションなど見どころ満載の本作ですが、一番の盛り上がりはポーカーの場面です。

原作小説ではバカラでしたが、2006年の『カジノロワイヤル』では、現在より人気のあるポーカー(テキサスホールデム)に脚色されました。

劇中後半のカジノシーンは9日間かけてじっくり撮影されたようで、クロースアップのシーンを多用し、ボンド・シッフル・ヴェスパーら登場人物のスリリングな心理戦を演出しています。

過激なアクションと静かで緊迫したポーカーのコントラストが、本作の大きな魅力のひとつです。

ポーカー(テキサスホールデム)に詳しいとより楽しく視聴できますが、手札2枚とテーブルの5枚の組み合わせで役が決まることを知っていれば一定臨場感を味わえる、万人向けのシーンとして完成させています。

2021年の最新作『007ノー・タイム・トゥ・ダイ』でクレイグのボンドは終了と言われていますが、カジノシーンをあらためて考察してみると、一作目『007カジノロワイヤル』の奥深さや人気の理由が浮かび上がってきます。

カジノロワイヤル考察:ヴェスパーとボンドのポーカー勝負

大枠はボンドとヴェスパーの心理戦。作品の2重構造

映画『007カジノロワイヤル』のジェームズ・ボンドとヴェスパー

©︎ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画『007カジノロワイヤル』は2時間24分と比較的長尺で、開始58分からメインのボンドガール・ヴェスパー(エヴァ・グリーン)が登場。

最大の盛り上がりとなるテキサスポーカーの場面は開始1時間10分から30分ほど続きますが、本当の意味でポーカー的な勝負が始まっていたのは、ヴェスパーと会った瞬間からでしょう。

彼女はシッフルに恋人を捕らえられており、協力しなければ彼を殺すと脅されていたことがラストのMとボンドの電話で判明します。

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最初からボンドを騙す側だったヴェスパーは、ボンドに会った瞬間から“ブラフ(はったり)”を仕掛けていたわけです。

「ブラフが勝負の決め手になるんでしょ?」というヴェスパーの言葉自体がブラフであり、終盤の伏線としても機能しています。

映画全体でみると、ボンドとヴェスパーと心理戦の内側でシッフルとのポーカー勝負が行われる2重構造になっているのが興味深いですね。

ヴェスパーに負けたジェームズ・ボンド

ボンドはヴェスパーにシッフルのブラフの癖を見抜いていると密告され、1回目の大勝負では敗れてしまいます。

フェリックス・ライター(演ジェフリー・ライト)から資金を提供され続行しますが、シッフルの彼女に毒を盛られ、車で解毒剤は打ったものの除細動器は動かせず大ピンチ。

その後ヴェスパーに助けられますが、彼女は毒が盛られたことも知っていたので、車内にいるボンドを見つけられたのでしょう。

ボンドを助けたのは好意を持っていたのか、シッフルから自分を救って欲しかったのか?おそらく両方だと思います。

そしてボンドはゲームを再開し、最後に手札からスペードの7と5を出して4〜8のストレートフラッシュでシッフルを打ち負かしました。

7は007からでしょう。5はローマ数字で表すとVと、Vesper(ヴェスパー)の頭文字Vをかけているのかもしれません。深読みかもしれませんがロマンチックですね。(賞金の暗証番号もVesperでしたし)

さて、ビーチでヴェスパーは「みんな本心のときに出す癖を持っているの?」と問いかけ、ボンドは「持っている。君以外」と答えます。

ボンドは、彼女についてはまだ完全に理解しきれていないと認めているのです。ただこの時点では裏切りに気付いておらず、ゆっくり彼女を知っていけばいいというような態度を取っています。

ヴェスパーから見ればこの会話は、「私がシッフルの手先だったと気づいて。組織から抜け出させて欲しい」という悲痛な訴えです。

結果的にボンドはヴェスパーのブラフ(心の仮面)を見破ることができず、彼女を失いました

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ボンドはシッフルに勝ちましたが、ヴェスパーには負けたんですね。

心理戦での負け・裏切り発覚・恋人の死の3つが重なって心のしこりとなり、ボンドは『ノータイム・トゥ・ダイ』まで、ヴェスパーの幻影を引きずることに。

ボンドガールを解放の趣向があり旧来の007の価値観を破壊した『ノータイム・トゥ・ダイ』ですが、思えば『カジノロワイヤル』でボンドがヴェスパーに負けたときから、ジェンダー平等的なコンセプトがあったのかもしれませんね。

最後のまとめ

ダニエル・クレイグボンドが鮮烈なデビューを飾った映画『007カジノロワイヤル』は、心理戦を根底に置き、ポーカー以外のシーンでも常にブラフ勝負が行われていた傑作スパイアクションでした。

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冷徹で頭脳明晰ながら、ヴェスパーという女性に勝ち切れなかった哀愁が、ダニエル・クレイグボンドを特別なものたらしめているのではないでしょうか。

歴代ボンドとは違う新しいボンドで話題となった大ヒット作は007ファンでなくとも必見です。

クレイグによる若きボンドはエネルギッシュかつスタイリッシュ。しかし失敗したり恋に落ちたりと人間味があり、無敵ではないところがストーリーを引き立てています。

カジノのシーンでのボンドとル・シッフルの対決も意外と人間臭く、心理戦に注目すると面白さが倍増です。静かなスリルを体感してみてください。

ここまで読んでいただきありがとうございます。『007カジノロワイヤル』レビュー終わり!