映画『秒速5センチメートル』は『君の名は。』で一世を風靡した新海誠監督が2007年に公開した、心を貫くような切ない恋愛を斬新な視点で描いた3話構成の物語です。
「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」各話あらすじ・ぶっちゃけ感想、結局何が言いたい作品なのか?メッセージ深掘り考察を知りたい人のための記事です!
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映画『秒速5センチメートル』ネタバレ感想・評価
映画『秒速5センチメートル』は、『君の名は。』以前の新海誠監督のひとつの到達点だと思います。
個人的には新海誠監督作品で『君の名は。』の次に好きなのが本作です。ぼかしをうまく使った奥行きのある美麗な映像にもひきこまれます。
3つの短編が絡み合う構成なので、各話ごとに感想や解説をしていきます。
①桜花抄(おうかしょう)
あらすじ:転校が多くて本が好きなもの同士仲良くなった東京の小学生、遠野貴樹と篠原明里。しかし中学へ上がると明里は栃木へ転校してしまう。二人はしばらく手紙のやり取りを続けた。ある日貴樹は雪降る中、電車で栃木へ向かう。
なぜ新海誠監督は中学生の気持ちをこんなにリアルに表現できるのか?
感動だけでなく、監督の鋭すぎる感性に対する興味まで湧いてきます。きっと新海誠の中に男子中学生がいるのでしょう。
大好きな明里に一刻も早く会いたいのに電車は雪で遅延しまくり。みずみずしいほどのじれったさに心を深くえぐられました。
20分ほどの話にもかかわらず見ているこちらまで焦りだし、夜中まで明里が待っていた結末には超感動しました。
速度はゆっくりですが、いったん気持ちが通じ合えばだれにも引き離せません。
そして2人はどこぞの小屋で一晩ともに過ごします。
2人の親は心配してないのか!?とかいろんな疑問は完全に無視されています。
ただ、さまざまな現実問題の完全無視によって、貴樹と明里の世界にはお互いしかいないと痛いほど伝わってくるのがまた面白いです。
ちなみに「桜の花びらの落下速度は秒速5cmうんぬん」というモチーフとなるモノローグがあるのですが、現実の桜の落下速度は秒速100〜200cmです。
タイトルと設定からして清々しいほどの嘘です(笑)。
秒速5cmは分速3m、時速180m(0.18km)と、動物の中でもっとも動きが遅いナマケモノと同じくらい。
人間の歩行速度は4km前後ですから、その数十分の1です。
②コスモナウト
あらすじ:種子島の女子高生・澄田花苗は同級生の貴樹が大好きだった。貴樹は中学生の頃に東京から種子島に引っ越してきた男の子だ。澄田は3年になり、進路を決めろと言われても、何も思い浮かばず、サーフィンでも波に乗れなくなっている。澄田は毎日下校時間を貴樹に合わせ、2人はいつも一緒に帰っていた。
貴樹ではなく澄田の視点にしたことで物語の奥行きが一気に広がりました。
仮に貴樹視点ならそれほど傑作にならなかったと思います。
貴樹に優しくされて胸をときめかせる澄田。
しかし澄田は貴樹が明里を想っていることを1cmも知りません。切なすぎます。
澄田はサーフィンで波乗りできなくなっていましたが、波に乗れたら告白するというプレッシャーより、告白したら2人の関係は終わると心のどこかで気づいていたから波に乗れなくなったのでしょう。
そして心理的に1歩成長し、再び波に乗って貴樹に告白する段階になったとき、絶対に交わることがないと悟ったのです。
ちなみにコスモナウトはロシア語で宇宙飛行士の意味です。
種子島宇宙センターから超スピードの宇宙船が飛び立つのに、澄田の貴樹への想いや、貴樹の明里への思いはすごく遅い。
対比構造で切ない心理描写を表現していたのだと思います。
③秒速5センチメートル
あらすじ:東京のIT企業につとめていた貴樹は何かに届くために日々仕事に没頭していた。しかしある日心の糸がプツンの切れ、会社を辞めてしまう。一方、明里は婚約者との結婚式の準備のために東京へ来ていた。二人は踏切ですれ違うが…。
現実をバリバリにつきつけ、視聴者の想いが完全に裏切られるのがこの第3パート。
貴樹は東京でやさぐれサラリーマンに、明里は結婚予定でキラッキラです。見ていて切なさで息が荒くなってきます。
桜の花びらだと思っていたものは、切れ味の鋭いナイフへと変化。心をズタボロに引き裂いてきました。
「ハッピーエンドが見たかったのに!」と賛否巻き起こるわけです。(ハッピーエンドもそれはそれで見てみたかった気もしますが)
ストーリーが突然現実的になり、視聴者はかつて味わったであろう苦い初恋を想起させられます。
同時に、浮世離れした要素の多かった桜花抄とコスモナウトも「まぎれもないリアルな話ですよ」と物語同士が相互補完する作用があったと感じました。
個人的には子供の頃の夢みがちな感覚はいつか捨てなければいけないけど、そこから再スタートできるというメッセージが込められている思いました。
いつまでも少年少女の心を持ち続けたいと人は願うものですが、ほとんどの感覚は大人になり忘れ去ってしまいます。
でもそれでもいいんだ。絶対的な何かを忘れてもまた前を向けばいいんだ。
悲観でなくポジティブな想いがそこになるのです。
『秒速5センチメートル』考察(ネタバレ)
結局本作は何を言っていたのか?
そのひとつの答えが、人の想いが伝わる速度=秒速5センチメートルということでしょう。
(文章を書いてみるとなんか恥ずかしさも込み上げてきますが、この恥ずかしい感情におくすることなく真っ向から作品を作れるのが新海誠監督のよさでもあります。)
相手を好きな気持ちは想像以上にゆっくりとしか伝わりません。
結果として、第1パート「桜花抄」のようにお互い辛抱強く待てて奇跡のような再会が果たせることもあれば、第3パート「秒速5センチメートル」のように想いが届かない間にすれ違ってしまうこともあるわけです。
「桜花抄」だけみても面白いですが、「コスモナウト」「秒速5センチメートル」までみることで視聴者はギャップや儚さにある種の美を感じるのだと思います。
最後のまとめ
映画『秒速5センチメートル』は、大作を作る前の新海誠監督の最高到達点だと思います。
切なさに加えて歯がゆいほどロマンチックなので賛否分かれるでしょうけど、個人的には好きですし、大人になった現在見返してみても色褪せていません。
新海誠監督は作家性が強いので、予算をかけた作品より本作のようなパーソナルな物語のほうが向いているとも思いました。
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