映画『母性』。湊かなえの原作小説を戸田恵梨香と永野芽郁で実写化!母と娘の苦悩と絶望をめぐるサスペンスです。
作品情報・キャスト・あらすじ・見どころ、ぶっちゃけ感想・評価、考察:本当は怖いラストの意味・桜の木のメッセージ、ストーリーネタバレ結末解説、湊かなえの原作小説との違い比較を知りたい人向けに徹底レビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
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映画『母性』あらすじ
現在
ある女子高生が首つり自殺で死亡。
母親はインタビューで「精一杯愛してきた娘がなぜこんなことになったのか」と答えていた。
過去
24歳で結婚したルミ子(戸田恵梨香)は、母(大地真央)から無償の愛を与えられて育ち、自分も母がよろこぶように行動してきた。
絵画教室に通うようになったルミ子は、そこでのちに夫となる田所(三浦誠己)と出会った。
ルミ子は田所の暗い絵が嫌いだったが、展示会を見にきた母は絶賛する。
ルミ子は母がよろこぶと思い、田所からその絵をゆずりうけた。
2人は結婚し、林のなかにある家で暮らすようになる。
ルミ子の母はよくたずねてくれた。
ルミ子に娘・清佳(さやか)も生まれるが、ある出来事をきっかけに人生が180度変わってしまう。
(※ストーリーの結末解説は記事の後半にあります。)
ネタバレなし感想・海外評価
母性の狂気や愛しさを鋭い視点で切り取ったすばらしい作品でした。
個人的には映画『告白』より本作のほうが好きです。
エンタメ映画をみたかった人は肩透かしをくらうのではないでしょうか。
あと母と娘の不仲を非常にリアルにあつかっているので、家庭環境にトラウマを抱えている人はみないほうがいいような気もします。
家族仲がわるくない人も、とりあえず劇場を出る頃には気分がどんよりすること間違いなしです。
いっぽうで親子関係が身につまされ、新たな発見があるという点では絶対見てほしい作品でもあります。
個人的に2022年公開映画では妻夫木聡、安藤サクラ出演の映画『ある男』には若干およばなかったですが、親子の絆を新たな視点でとらえたい人にはおすすめです(ネタバレ少なめ感想の続き)。
おすすめ度 | 84% |
世界観・テーマ | 94% |
ストーリー | 67% |
IMDb(海外レビューサイト) | 5.6(10点中) |
※以下、映画『母性』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『母性』ネタバレ感想・評価
母娘の葛藤からくる芸術的なテーマと気持ち悪さが融合した唯一無二の作品でした。
湊かなえさんの原作小説もとても面白かったですが、映画のほうが話しが複雑でないぶんメッセージがスッキリ見えて好きでした。
母と娘の証言が違うということが大々的に宣伝されていたので、黒澤明の『羅生門』や最近だとリドリー・スコットの『最後の決闘裁判』(2021)みたいな感じかと思っていました。
しかし実際は証言の食い違いはこの映画の一部であり、メインではないです。
首をしめるか抱きしめるか以外は細部が違うだけで、大枠で見れば母と娘の事実にそこまでの差がないようにも思えます。
戸田恵梨香さんの演技の切りかえは見応えありますが、「母の証言」の時点で十分怖いです。
それより母と娘がおたがいの罪を問いかけあうような漆黒の心理描写や全体のメッセージがメインでしょう。もはやホラーです。
ルミ子が母親になることや、娘に対しての嫌悪感がリアリティたっぷりに描かれており、心をえぐられました。
胎内の子を“私と違う生き物”と表現したり、娘を母に好かれるための道具として利用していたり…。
単なるマザコンという言葉を超えたおそろしさがあります。
台風でルミ子の母がタンスの下敷きになり、ルミ子が娘ではなく母を助けようとするシーンは衝撃的で、見てはいけないものを見ているかのようでした。
言葉は悪いですが、胸糞レベルです(それが作品全体の良さでもあるのですが)。
ラストはハッピーエンドっぽい雰囲気でおわりますが、それ自体が呪縛とも感じられ、非常に奥が深い物語でした(本作の複雑なメッセージについては考察の項目で詳しく語ります)。
広い意味では母娘だけでなく自己と他者についての普遍的な物語であり、見た人がそれぞれに解釈できるのもすばらしいです。
戸田恵梨香さん演じる母・ルミ子が元華族のお嬢さまなので太宰治の小説『斜陽』っぽいテイストもありました。
サスペンスとしては、
- 実は冒頭で自殺した女子高生は清佳ではない
- ルミ子の母は自殺していた
の2点がメイン。
母がルミ子の目を覚させるために自殺したのは衝撃的でしたが、それ以外ではおおきな驚きはなかったです。物語のダイナミックさもありません。
(自殺も母性の狂気だと抽象的にとらえれば腑におちますが、冷静に考えてしまうとやりすぎな気がします。)
全体的にメッセージ性が強く、ストーリー性はイマイチな感じ。
あと映画についての難点ではないですが予告と本編でまったく雰囲気が違うのはどうかと思います。
予告もチラシもさもエンタメサスペンスであるかのような宣伝でしたが、実際は濃密なヒューマンドラマといったほうが近いでしょう。
配給側は商売なので仕方ないと思いますが、期待していた内容と全然違って映画が一般視聴者に評価されないことになりかねないので、適度にしたほうがいいと思いました。
母性 考察(ネタバレ)
母性の喪失と再生
母になりきれないルミ子が娘・清佳の自殺未遂でやっと母性を取り戻す。
子が生まれた瞬間でなく、子の命が失われる直前に母性が目覚める結末は芸術的とすらいえます。
(それが真実かは不明ですが、革新的なメッセージです。)
人間として失ってはならないものは、失う直前に見えてくる。
ルミ子は教会で懺悔(ざんげ)をしているシーンがありましたが、物語全体が神の啓示のようですね。
ラストの怖い意味、無償の愛の呪縛
ルミ子が清佳の母であると受け入れ、清佳もまた娘であることを受け入れたことは確かです。
しかし、ルミ子や清佳のトラウマが解決されたかは疑問が残ったように思えます。
結局ルミ子は自分のアイデンティティを何ひとつ持たないまま老いた義母の世話をしていました。
幼い頃から他人のために生きることを強要され、愛を与えられなかった清佳の心の傷は普通に考えれば癒えなそうです。
ルミ子は義母に大切な娘と言われ、目上の人に好かれたい願望は満たされているかもしれません。
いっぽうで無償の愛という呪縛・負の連鎖から抜けきれていないようにもみえます。
大地真央さん演じるルミ子の実母は、娘にも孫にも無償の愛をそそぐ理想的な人物のように描かれていました。
しかし視点を変えれば、彼女も愛ゆえにルミ子の心を壊していたとも考えられます。
過度に依存させてしまったことに加え、目の前で首をハサミで刺して自殺する狂気におよんでしまったわけですから。
なぜ無償の愛が呪縛になってしまうのでしょうか?
『母性』は母と娘の関係だけでなく、広い視点でみれば自分と他者との関係性にも問題提起がなされており、そこに答えがあります。
Apple社の故スティーブ・ジョブズの「他人の人生を生きるな!自分の人生を生きろ…」という有名な演説をご存じでしょうか。
『母性』で描かれている無償の愛は、このジョブズの言葉と対極にあるようです。
ルミ子は母から無限に無償の愛を受けたことで、自分が暗い気持ちを抱えていることすら気づけない人間になってしまいました。
愛だけで悲しみや失望を教わっていないため、自分を大切にすることを知らないわけです。
人間として自分の尊厳に気づいていないと言い換えることもできます。
そしてルミ子は娘・清佳にも他人に無償の愛をあたえ続けることを強要します。
自分を愛せないままに他人を愛する無理難題を押しつけました。
ルミ子は自分の人生を奪われ、子供の人生まで奪ってしまっているわけです。
もちろん無償の愛それ自体は悪いことではありません。
しかし利己的な一面も持てるのが人間の権利です。
『母性』からは、常に他者のために行動することで人間として当然の権利が奪われてしまう恐ろしさが垣間見えました。
清佳が首を吊って自殺未遂を犯したのは母親に首を絞められてショックだったからと考えることもできますが、母親の願いを考えた結果、死を選択したという解釈もできます。
「母が死んでほしいというなら死のう」ってことです。
『母性』では他者の目線に人生を奪われる苦しさと怖さが描かれていたと思います。
桜の木のメッセージ
映画『母性』では桜の木や花びらが何度も登場しました。
桜の木は大地真央さん演じたルミ子の実母(清佳の祖母)をあらわしています。
ルミ子が田所の実家で季節外れの桜の花をみてはげまさるシーンで明らかになり、原作小説ではよりわかりやすく桜=母だと明示されています。
清佳は田所の家の桜の木で自殺をはかりますが、ロープがほどけて命が助かったのも祖母の生きてほしいというメッセージかもしれません。
清佳が教師になっていた冒頭の描写でも窓から桜の花びらが入ってきました。
花びらが舞っているようすは実母を指しているだけでなく、母と娘を表現しているようでもあります。
推測も含みますが、台風で窓を割って入ってきたのも桜の木ではないでしょうか。
ルミ子が娘を救出して母性を得られるように運命づけられて折れたのかもしれませんね。
女性は母と娘の2種類にわけられる?
「女は母と娘の2種類にわけられる」
清佳のこの発言の真意は、彼女が母か娘かどちらを取るか悩むほどに、ルミ子に愛されたと自信を持てたということでしょう。
本来は母と娘の2種類にわけられるというより、母であり娘であるほうが自然ですが、ラストで妊娠を告げた清佳は母も娘も両方えらべる幸せを噛みしめているのだと思います。
ただ、清佳はなんとなくでは済ませられない白黒ハッキリつけたい性格なのが気になりました。
作中の言葉でいうと「遊びのない人」です。
そもそも母と娘のどちらのタイプなのか2択の疑問を持つこと自体が変です(幸せになれる思考回路でないと思います)。
清佳はそこに気づいているのでしょうか。
小説『母性』読了後の深掘り考察レビュー記事です。 母性の存在自体を問う斬新なメッセージ、母と娘の逆転現象、第二子・桜の意味の解釈を書いています。 ↓戸田恵梨香さん、永野芽郁さん出演の映画版の考察・感想については下記記事へ↓ […]
『母性』ネタバレあらすじ解説
母の証言
ルミ子は田所と結婚するが、彼は自分が作る食事を美味しいとも言ってくれず、髪形を変えても何も言ってくれない。
不満を感じていたルミ子だったが、母が毎日のように料理を教えにきてくれたので満たされていた。
やがてルミ子は妊娠。ルミ子は不安になるが、母が「新しい命が未来へとつむがれていくのだから幸せなことだ」とはげます。
ルミ子は清佳を出産。田所よりも母のほうがよろこんでいた。
娘・清佳に「おばあさまや他の人が何をしたらよろこぶか、いつも考えながら生活しなさい」と言い聞かて育てた。
幼稚園に入った清佳は発表会で義母(高畑淳子)を楽しませる。
「教育がしっかりしている」とルミ子ははじめて義母からほめられ、精一杯尽くせば相手はわかってくれるとあらためて実感した。
ルミ子は、清佳が母の刺繍(ししゅう)をほどこしたカバンではなくキティちゃんのものがほしいと言ったことにショックを受け、弁当箱を落とす。
ある日台風が発生。夫は夜勤でいなかった。
夜停電になり、母は清佳と同じ部屋で寝た。しかし台風で2人の寝ている部屋に折れた大木がガラス窓を割って倒れてくる。
ルミ子が物音に気づいて部屋に行ったとき、母は清佳を守ってタンスの下敷きになっていた。
ルミ子は娘の清佳のことは気にせず母を助けようとする。
母は「私じゃなくて娘を助けなさい」と言って手を振りほどいた。
ルミ子は娘をかかえて家から脱出し、母は炎に包まれる家の中で死亡。
ルミ子たちは田所家(夫の実家)で暮らすことになる。
義母は口汚く、人使いが荒く、いつもルミ子に罵声を浴びせこき使っていた。
ルミ子はそれでも義母に気に入られようと家事や農作業を必死でこなすのだった。
娘の証言
娘の清佳(さやか/永野芽郁)は高校生に成長。
高校生になった清佳は、母・ルミ子をかわいそうに思い祖母に口ごたえする。
しかしルミ子は、「祖母に気に入られるように考えて行動しろ」と清佳を責めた。
清佳はルミ子が自分を愛してくれないことにずっと悩んでいた。
ある日、律子(山下リオ/祖母の娘)が家に恋人を連れてくる。
恋人には借金があるらしく、祖母は結婚に猛反対した。
祖母は清佳に律子の部屋を見張っているようにいうが、清佳は律子を外に出した。
そのまま律子は帰ってこず、娘を溺愛していた祖母は泣きじゃくって清佳に罵声を浴びせた。
夜、祖母の機嫌を損ねたことに絶望した母が、寝ている清佳を布団のうえから何度もたたいた。父は見て見ぬふりをする。
ラスト結末・衝撃の真実
清佳は下校途中で家と反対側へ行く父を見つけ、不思議に思ってあとをつける。
父が入っていったのは祖母(ルミ子の母)の実家だった。母・ルミ子はその家を親友・仁美に貸していたのだ。
父は仁美と不倫をしており、残業があるといっては毎晩この家に来ていたことが判明。
清佳は父と仁美に「自分たちのしていることが恥ずかしくないのか」と問う。
すると仁美が、「あなたの祖母は、あなたを守るために自殺した。お父さんは、あなたと母親の関係を見ていられなかったから不倫している」と衝撃の事実を告白した。
清佳は絶望し、走って家に帰る。
そして母・ルミ子に「おばあちゃんは私を守って自殺したんでしょ!?」と言って何度もあやまった。
正気を失いかけたルミ子は、清佳を抱きしめるかと思いきや首をしめた。
清佳はその手を振りほどいて家の中に入る。
夜、清佳は庭の木で首つり自殺を図る。途中でロープが解け、清佳は木から落ちて倒れた。
発見した義母が急いで救急車を呼ぶ。
ルミ子は清佳に近づいて手をにぎった。
清佳は病院に運ばれる。
ルミ子は教会で私が悪かったと懺悔(ざんげ)した。
清佳は病院で目を覚まし、母・ルミ子と絆を確かめあった。
現在
清佳は教師になっていた。
高校生の女の子が自殺した事件でその子の母親が「愛あたうかぎり娘を愛していた」というインタビューを聞き、かつての自分と母の関係を思い出す。
仁美とその旦那が働く居酒屋で清佳は「女には2種類ある。母と娘だ」と話した。
妊娠した清佳は母・ルミ子に電話。ルミ子は新しい命が紡がれるとよろこぶ。
清佳は、「私は母と娘どっちだろう」とつぶやいた。
『母性』終わり!
湊かなえの原作小説との違い
(原作小説もとても面白いのでぜひ読んでみてください)
映画と原作小説は大まかな流れは一緒ですが、異なっている点も多いです。
1番大きいのは、小説にはルミ子が第二子を妊娠して桜と名づけるも、流産してしまうくだりがあることです。
母・ルミ子に降りかかる悲劇という意味では小説のほうが重い内容ですね。
それ以外では主に下記の設定が違います。
- 実母は首をハサミで刺したのではなく舌を噛んで自殺
- 田所家の義父が生きていた頃も描かれる
- 律子の姉・憲子とそのおさない息子の英紀がルミ子に迷惑をかける
- 律子(りっちゃん)が太っている
- 中峰敏子や彰子が姓名占いをする
- 田所哲司・夫が娘の自殺未遂のあと失踪する
あとは感覚の部分もありますが、小説のほうが娘・清佳の荒っぽい言動などが強調されていて、どちらの手記も信用できないという意味合いが強いです。
映画『母性』作品情報・キャストと演技の印象
英題:『Maternal Instinct』
ジャンル:サスペンス・ヒューマンドラマ
年齢制限:G(何歳からでもOK)
監督:廣木隆一
脚本:堀泉杏
原作:湊かなえ「母性」(2012)
2022年は廣木隆一監督の作品の公開ラッシュですね。
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登場人物・キャスト紹介
主人公・ルミ子を演じた戸田恵梨香さんについては彼女の作品を全作みてるわけではないですがキャリアNo.1だと思います。
上品さ・優雅さと狂気が融合していて素晴らしかったです(LIAR GAMEとは雲泥の差…)。
娘・清佳(さやか)役の永野芽郁さんもみずみずしさがあり、ぴったりだったと思います。高校生役でも全然いけますね。
(戸田恵梨香さんと永野芽郁さんはドラマ『ハコヅメ たたかう 交番女子』でも共演しましたね)
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上品で愛情深いルミ子の実母を演じた大地真央さんも、文学作品っぽい回りくどいセリフと透明感がすてきでした。
そして、いじわるな義母を演じた高畑淳子さんは完璧すぎました。前時代の「いるでしょこういう嫌な義母」の究極系、アルティメット姑(しゅうとめ)です。
ごはんを口に入れてモゴモゴしながら暴言をはくシーンなんか最高でした(身近にいたらちょっと絶望です)
最後のまとめ
湊かなえのベストセラー小説を映画化した『母性』は、だれもが持つ親子の割り切れない葛藤を鋭いコンセプトであぶり出したすばらしい作品でした。
いっぽうでストーリーの面白さももう少しほしかったのも正直なところ。
大地真央さん演じる祖母が自殺していたのにはびっくりしましたが、それ以外はひたすら母娘がすれ違う重苦しいシーンを淡々と見せつけられます。
死亡していた女子高生が実は清佳ではないというのも、冒頭で永野芽郁が教師としてその事件を聞くシーンでわかりましたし。
時系列をひねるならもっと複雑でわかりにくくしたほうがサスペンス的にはよかったと思いました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『母性』レビュー終わり!
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