映画『バビロン』ネタバレ考察:ラストの意味解説:デイミアン・チャゼル監督の美学とは!?

  • 2023年2月12日

映画『バビロン』(Babylon)は賛否両論の大論争を巻き起こしていますが、ラストシーンの意味や全体のテーマはなんなのでしょうか!?深掘り考察していきます。

  • ラストの意味解説
  • 本作のテーマ・メッセージ
  • バタフライエフェクト的な表現

などを独自の視点で解説してみました!

↓映画『バビロン』のあらすじネタバレやぶっちゃけ感想レビューについては下記の記事へ↓

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映画『バビロン』(Babylon)

映画『バビロン』ネタバレ考察

バビロンの意味

バビロンは紀元前2000年前後にメソポタミアで起こった古代都市です。

バビロンにはバベルの塔(天まで届くように作られて神に破壊された)があったとも言われています。

栄華を極めた挙句に滅びた都市であり、本作には100年前のサイレント映画時代の比喩として今はなき古代都市・バビロンのタイトルをつけたのでしょう。

そして高みを目指して破滅したマーゴット・ロビー演じるネリーこそが、バベルの塔だったと思います。

ラストシーンの意味

ラストシーンでは、マニーが映画『雨に唄えば』(1952)を見て涙を流します。

デイミアン・チャゼル監督が『ラ・ラ・ランド』のラストでもやったように、このときにマニーの主観でネリーやジャックと過ごした思い出の映像が入り混じりました。

さらにアバターなど、その時代以降の未来の作品の映像も流れます。

これらは冒頭でマニーがネリーに「映画を作って何か大きな流れの一部になりたい」と語ったセリフに対する回答でしょう。

つまりジャックやネリーなどサイレント時代の俳優の業績・手法などがしっかりと『雨に唄えば』に受け継がれており、さらにこれからも映画史は続いていくということ。

破天荒すぎたジャックとネリーも、そして制作に関わったマニーも映画史の一部となって生き続けるのです。

今の映画にも彼らの面影を見ることができると伝えているのでしょう。

テーマの解釈:悲しきレクイエム

表面上のテーマはサイレントからトーキー映画へ移り変わる諸行無常・栄枯盛衰です。

ただ本作の場合は『雨に唄えば』や『アーティスト』(2011)のような美しいノスタルジーに重きを置いていません

ジャックもネリーもわりとアッサリ消えます。

映画の歴史への敬意はありつつ、過去の遺物が消えて現在があるという事実を俯瞰視点でドライに描いているようです。

映画愛だけを伝えているようには思えません。

シネマグ
なんせ冒頭からしてsinging in the shit…象のウ○コのなかで歌うみたいな感じですから。

そんな奇怪な表現に本作の狂気が宿っている気がします。愛があるにもかかわらずドライで冷笑的な作風なのです。

いくら愛があっても、大きな変化は止めることができないと悟っているのでしょう。

『ラ・ラ・ランド』のラストは主人公とヒロインの過去やIfの世界を胸に刻みつけるようなある種ノスタルジックなラストでしたが、本作『バビロン』では愛はありつつも、以前の愛すべき形が儚く散っていくのは仕方ないとも言っているようです。

愛するゆえにその変化から距離を置きたい。でもそれはできない。

狂気の裏に、繊細で両儀的(両方の意味を持つ)な印象を受けます。

デイミアン・チャゼル監督は映画への愛を描きつつ、今の映画界・今のハリウッドもNetflixなどのVODやAIや技術革新で変わっていくことは避けられないと悟りの境地まで表現しているようです。

サイレントからトーキーに変わったように、今の映画も形を変えていく可能性は大いにあるでしょう。

チャゼル監督は、自分もジャックやネリーと同じように大きな流れに飲み込まれ、いずれ消えていく…と思っているのかもしれません。

まとめると映画『バビロン』のテーマは映画界の犠牲に対してのシニカルなレクイエムだと思います。

映画セットの生態系、音にあふれていたサイレント時代

『バビロン』で1番興味深かったのが、サイレント映画は撮影中に周囲がいくら騒ごうがまったく問題ないという事実。

現代のような外からのノイズを隔離するスタジオでなく、映画を撮影する場所とその周辺がひとつの村のようで、余興や食事などどんちゃん騒ぎでにぎわっていました。

映画セット周辺に独自の生態系が形作られているようです。

個人的には本作『バビロン』で一番興味深かったのはこの映画にうかれた生態系の熱気でした。

ジャックが魔法の空間と言っていたのもうなづけます。

トーキーの初期の撮影は録音技術が追いつかずマイク位置が固定で誰も声を出せません。声を出すという人間性を奪われているような撮影現場です。

トーキー映画への移行はジャックやネリーなどの俳優を殺しただけでなく、声や音にあふれていたサイレント映画の生態系も破壊したのです。

同時多発的なミラクル:バタフライエフェクト

夕陽の撮影シーン

©︎IMDb

本作『バビロン』で一番感動したのが、マニーが撮影用カメラを街まで借りに行ってギリギリ間に合ったおかげで、夕陽が沈む瞬間にジャックがヒロインにキスをして肩に蝶が止まるミラクルな場面の撮影に成功するシーン。

このときにネリーも最高の涙を流すシーンを撮影していました。

それぞれの奇跡が同時多発的に起こっているようでカタルシスがすごかったです。

ジャックが奇跡的なシーンを撮影できたのは、カメラがぶっ壊れたこと、マニーが撮影用カメラを借りにいったら、貸し出し中のカメラの返却が遅れて待たされたこと、ジャックが酔っ払いすぎて丘を登るのに時間がかかったことなど、数々の要因が重なったおかげです。

近くで撮影したネリーの撮影現場とも、表面上はわからない影響をおよぼしあっていたかもしれません。

きっとジャックの肩に止まった蝶も、ネリーの美しい涙に影響を与えていたのでしょう。

マーゴット・ロビー演じるネリーの涙のシーン

©︎IMDb

バタフライエフェクトを映像で表現したかのようです(バタフライエフェクト:遠くの蝶の羽ばたきが竜巻の要因になるかもしれないカオス理論)。

日本語でいえば風が吹けば桶屋が儲かる。そんな撮影現場同士の美しき関連性が感じられました。

ジャックとネリーはほとんどからみがありませんでしたが、それも映画産業にいれば実際に会わなくても影響を及ぼしあっていることを際立たせるためだと思いました。

理由なく没落するスター

映画界の変化に対してのドライな視点が含まれていることに関連しますが、ジャックなどのサイレント時代のスターが理由なく没落するという批評家・エリノアの言葉が非常に印象的でした。

資本主義社会においてある種の真理をふくんだ言葉でしょう。

ジャックの声やセリフがダメというより、根本的に時代にそぐわないと言っているわけです。

これって現代のエンタメ界・ビジネスなど何にでも通じる怖いメッセージですよね。

ダメになった理由はいくつも挙げられるけど、よく考えるとクオリティが劣っているわけではない。ほんの少しだけ時代の雰囲気から逸れてしまったら終わり。

そんな残酷な現実を突きつけているようです。

映画『バビロン』には人ではなく時代に殺されるという視点が盛り込まれていると思いました。

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