スタジオポノックの新作映画『屋根裏のラジャー』。子供の空想から生まれたイマジナリーの奮闘を描きます。
ストーリー考察:イマジナリーの存在意義・ミスター・バンティングの目的
視聴してのぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
映画『屋根裏のラジャー』あらすじ:少女アマンダは毎日、想像上の友達(イマジナリー)のラジャーと屋根裏で遊んでいた。2人は空想の大冒険をして過ごしていた。しかしある日ハプニングが起こり、ラジャーのイマジナリーとしての存在が揺らぎ始める。ラジャーは同じくイマジナリーの猫・ジンザンや女性・エミリと出会う。そしてイマジナリーたちが暮らす図書館へ足を踏み入れるのだった。しかし、イマジナリーを食って生きる男ミスター・バンティングがラジャーをつけ狙い…。
※以下、映画『屋根裏のラジャー』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『屋根裏のラジャー』ネタバレ考察
イマジナリーの存在意義
ラジャーのようなイマジナリーはなんのために存在するのでしょうか!?
ラジャーは3カ月と3週間と3日前にアマンダの空想から登場しました。
終盤で、アマンダが父の死を乗り越えるためにラジャーを作り出したことが明らかになります。
ラジャーとアマンダの約束「忘れないこと、守ること、泣かないこと」は、「父を忘れないこと、母を守ること、泣かないこと」というアマンダが傘に自分で書いた決意がもとでした。
つまりイマジナリーは子供が現実と向き合えるようになるまでの心の防衛機能といえるでしょう。
自我を持つイマジナリーたち
本作ではイマジナリー自体が意志や自我を持つ存在として描かれます。
本作では図書館がイマジナリーたちの住みかという設定です。
イマジナリーたちは「本」というコンテンツから空想のエネルギーを得て生きている印象でした。
ここから、「本」のような空想の産物も偽りではないというメッセージが伺えます。
この考え方はアニメにも当てはめられます。
つまり『屋根裏のラジャー』はアニメ作品への賛辞でもあるのです。
物質的な現実ではなくとも、確かに存在する価値あるもの。
奇しくもジブリの宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』に通底する部分がありますね。
(※ラジャーやエミリらイマジナリーの行動自体が意識不明のアマンダの心の中の出来事と考えることもできますが、その解釈はおいておきます。)
ミスター・バンティングの目的
結論からいうと、ミスター・バンティングの目的は子供に無理やり現実を見せること、夢を奪うことです。
“無理やり”という部分が大事で、もう少し深く見ていく必要があります。
子供が周囲の大人や環境によって無理やり空想や夢をはぎとられる・壊されることがありますよね。
「いつまでそんなもので遊んでるんだ!」とか「そんな夢みたいなこと言ってないで勉強しろ」とか、だれにでも大なり小なり経験はあると思います。
それをビジュアル化したのがミスター・バンティングです。
イマジナリーを自然に忘れられた子供は幸せに成長できるのだと思います。
いっぽうで、イマジナリーを無理やり奪われてしまった子供の心の成長には大きな支障が出るでしょう。
そしてそれは、日本社会で頻繁に起こっているリアルな事象なのだと思います。
子供の内面の恐怖を体現・ミスター・バンティング
先ほどはミスター・バンティングを外的な圧力として解釈しました。
それとは逆に、子供の内面に巣食う恐怖として考えることもできます。
ミスター・バンティングは現実社会はもちろん、死や老いという現実を見つめないで生きてきた存在です。
現実を見つめたくないから他の子供からイマジナリーを奪って食べています。
そういう意味でミスター・バンティングは、体は大人ですが、心は子供なのかもしれません。
ミスター・バンティングは子供が持つ現実社会への恐怖そのものだと捉えられます。
ずっと空想を貪り続けて生きていたい願望のメタファーです。
ジンザンの赤目と青目の意味
ジンザンは右目が赤、左目が青のオッドアイです。しかし初めて図書館にやってきたラジャーは「左目が赤かった」と逆に答えています。
それを聞いたエミリは「まだ現実が見えていない」と言っていました。
よってジンザンの目は、イマジナリーが自分がイマジナリーだと意識できているかのリトマス試験紙的な役割を果たしていると考えられます。
なぜイマジナリーだと意識できていないと逆に見えてしまうのか?
理由は自分が見られている客体の存在なのか、見ている主体なのか区別できないからでしょう。
さまざまな解釈の余地がありますが、自分の存在を正しく定義できていないと見え方が逆になってしまうのだと思いました。
映画『屋根裏のラジャー』ネタバレ感想・評価
子供の空想から生まれたイマジナリー。そのイマジナリー自体に自我があると描いた点が素晴らしいと感じました。
ワクワクが止まりませんでした。
個人的にはイッセー尾形さんの訛り全開のミスター・バンティングが大好きでした。妙ないやらしさが凝縮された魅力的なヴィランに仕上がっていたと思います。
ミスター・バンティングのイマジナリー少女が出てくるシーンは結構ホラーっぽくてゾクッとしました。
ストーリーではやっぱり最後に母・リジーが子供の頃のイマジナリー・レイゾウコを思い出すシーンが感動的でしたね。
ストーリーはシンプルなものの、ラジャーがミスター・バンティングにロジャーと名前を間違えられているうちに存在が危うくなる描写など、存在や認識について結構深掘りされていた点も興味深いです。
物語はわりとこじんまりしていたのがちょっと残念というか、その点については好みではありませんでした。
CineMagの点数 | 80点 |
世界観 | 90点 |
ストーリー | 70点 |
Filmarks | 3.6(5点中) |
映画.com | 3.7(5点中) |
映画『屋根裏のラジャー』作品情報
制作国:日本
上映時間:1時間48分
英題:『The Imaginary』
ジャンル:ファンタジー
年齢制限:年齢制限なし
監督:百瀬義行
プロデューサー:西村義明
原作: A・F・ハロルド『ぼくが消えないうちに』
登場人物・CV
ラジャー|cast 寺田心
アマンダ|cast 鈴木梨央
リジー|cast 安藤サクラ
エミリ|cast 仲里依紗
ジンザン|cast 山田孝之
オーロラ|cast 杉咲花
ダウンビートおばあちゃん|cast 高畑淳子
レイゾウコ|cast 寺尾聰
ミスター・バンティング|cast イッセー尾形
最後のまとめ
『屋根裏のラジャー』は、子供の成長過程のイマジナリーをある種実在するものとして描いた意義深い作品でした。
ジブリ作品と比べると刺激が少ないというか、まとまってしまっている印象があるのが勿体無いと思いましたが、スタジオポノックには今後もこの路線を突き進んでほしいと思いました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『屋根裏のラジャー』レビュー終わり!
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