『ナイル殺人事件』考察!愛のトレードオフ/深紅VS灰色(ネタバレ)
愛と金のトレードオフ
『ナイル殺人事件』のテーマは愛による悲劇です。
二兎を追う者は一兎をも得ずですね。
愛と“何か”のトレードオフが映画『ナイル殺人事件』のストーリーにおけるキーポイントだと思いました。
- リネットを計画殺害したサイモンとジャッキー。彼らは愛以外に“金”を手に入れようとして悲劇となりました。
- ブークは、恋人ロザリーとの暮らしのために“宝石”を盗むというあやまちを犯し、結果ジャッキーに銃殺されます。
- ルイーズは“金”に目がくらんで証言をためらってジャッキーに殺されました。ルイーズの元恋人リネットは“金”を渡され、彼女を捨てました。
みんな愛と金を同時に得ようとして破滅していますね。
愛を金で穢したことによる冒涜のように思えます。
一方、灰色の脳細胞を持つ探偵ポアロは、最愛の人に先立たれてしまいました。そして喪失から事件推理に全力をそそぐようになり、今に至るというわけです。
ポアロは最愛と引き換えに推理能力を得たのでしょう。
ブルース歌手・サロメといい雰囲気になりつつも、事件解決後には「あなたの仕事は見たくなかった」とキッパリ言われてしまいます。
『ナイル殺人事件』は、愛と“他の何か”は両立できない無慈悲なトレードオフの物語だったといえるでしょう。
愛にすがりつく者VS手放した者
事件で死んだ者たちを愛にすがりつく者、対してポアロを愛を手放した者という二項対立の図式で捉えることもできます。
ポアロが自身の優れた洞察力について「灰色の脳細胞」と言っていることを加味すると映画『ナイル殺陣事件』は、愛という深紅VS灰色の物語ともいえるでしょう。
殺されたリネットが灰色に見えなくもない銀のドレス、一方犯人ジャッキーは深紅と衣装がメッセージとぴったりですね。
愛が赤だとすると、灰色は財力・硬貨や知性の象徴でしょうか。
人間は両方を手に入れようと躍起になり、悲劇が生まれるのかもしれません。
考察:黒人ブルースとポリコレ・曲紹介(ネタバレ)
アガサ・クリスティの原作小説ではサロメ・オッタボーンは白人の小説家ですが、映画ではでは黒人ブルース歌手に変更されていました。
ポリコレ配慮でキャストに有色人種を入れなければいけないという理由からの変更でしょう。
ただ『ナイル殺人事件』は1937年の設定で黒人差別が酷かったはずなので、イギリスの富豪・上流階級と、売れてるとはいえ黒人歌手の立場が同じなんてことはあり得ないと思います。
(まあフィクションだから別にいいんですけど…)
そういう意味では雑なポリコレ配慮だったと思いました。
ただ使用されたブルース楽曲の選曲センスの良さで、このデメリットがあまり気にならなかったのも事実です。
冒頭のクラブでのダンスシーンのブルースや、ラストのゴスペルが作品のテイストとマッチしていました。
サロメ・オッタボーンのモデルになっているのはシスター・ロゼッタ・サープという人物で、ブルース界の超大物です。エレキギターを弾きながらのパフォーマンスはブルースやロックに多大な影響を与えたと言われています。
ラストシーンでサロメが歌っていたのは、ゴスペルグループthe staple singers(ザ・ステイプル・シンガーズ)のスタンド・バイ・ミーです。こちらも映画のラストを締め括るのにふさわしい、素晴らしい楽曲でしたね。
補足的ですがナイル川でブルース音楽が披露されたことで、アメリカで独自の文化を発展させた黒人が、アフリカ大陸へ帰るというメッセージもあると思いました。
最後のまとめ
映画『ナイル殺人事件』は、灰色の脳細胞VS恋人たちの悲哀がナイル川をバックにゴージャスに描き出された秀作・エンタメミステリ映画だったと思います。
アガサ・クリスティの原作ファンやポアロの昔のドラマファンはどう思っているかわかりませんが、ケネス・ブラナー版ポアロの第三弾も見たいですね!
ここまで読んでいただきありがとうございます。『ナイル殺人事件』レビュー終わり!
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