『川っぺりムコリッタ』ネタバレ・ラスト結末まで解説
詐欺の前科がある山田(松山ケンイチ)は出所後に港近くにあるイカを捌く工場・沢田工業に勤める。生きる希望などなかった。
新しいアパート・ハイツムコリッタで風呂上がりに牛乳を飲む山田。するとミニマリストと名乗る島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してくれと言ってくる。山田は断った。しかし後日、島田はご飯茶碗と箸を持って山田の部屋へあがり、炊飯器からご飯をよそって「ご飯は誰かと一緒に食べた方が美味しい」と笑顔になる。
島田はハイツムコリッタの中庭で野菜を育てており、それを持ってきてくれた。マヨネーズをちょっとつけるだけですごくおいしい。山田もときどき菜園を手伝う。
大家の南詩織(満島ひかり)はいつも元気いっぱいだったが、島田によると5年前に夫が癌で先立ってしまったらしい。
向かいのアパートに住む溝口健一(吉岡秀隆)とその息子・洋一は、お墓の訪問販売をしており、近所からウザがられていた。洋一はハーモニカを吹いてホームレスのギター弾きと一緒に演奏したり、川辺に使えなくなった電話をたくさん並べ詩織の娘・カヨコと一緒に何かと交信しようとしている。
山田に役所に連絡が届く。4歳で両親が離婚して生き別れた父が孤独死したという。島田に話すと、どんな人だろうと、いなかったことにしてはいけないと言われた。山田は市役所の堤下靖男(柄本佑)に連絡し、遺骨を引き取った。
山田は隣に住む老女・岡本さんに会う。岡本さんはもうすぐこの草にも紫の綺麗な花が咲くと言っていた。
溝口は丘の上の屋敷に住む女性(薬師丸ひろ子)が飼い犬のために200万円の墓石を買ってくれたことで臨時収入を得て、息子の洋一と一緒にすき焼きを食べようとしていた。島田と山田が匂いを嗅ぎつけて、「僕、お金ありません!」と言って肉を食べ始める。詩織とカヨコもやってきて肉を食べ始めた。
山田は岡本さんのことを詩織や島田に聞くと、5年前に死んでいることが判明する。生前は美容師で、詩織が子供の頃からハイツムコリッタに40年以上住んでいたらしい。
山田の部屋にある父の遺骨が夜になると光出すようになる。山田はかけ算の7の段を逆から数えて心を落ち着かせる。しかし光は消えない。山田は遺骨をトイレに流そうとするができない。川に流そうとするが住職のガンちゃんに見られてやめる。
島田は、息子がいたんだ、もういないんだけど…と山田に話た。
雨の日、山田と島田はガンちゃんのお寺で雨宿りをした。山田と島田とガンちゃんは一緒に酒を飲みに行く。酔っ払った島田は吐きながら、ごめんなさいと何度もつぶやいていた。
翌日、島田は山田の家にご飯を食べに来なかった。その翌日、畑仕事をしていた島田は「前科者なんだって?」と山田に言う。
山田はショックを受けてイカの加工場で体調を崩した。沢田社長(緒方直人)が今ここで辞めたら振り出しに戻るぞと励ました。
山田は父の携帯を見て、死ぬ間際に電話をかけていたいのちの電話にかけてみる。死んだらどこに行くのか?と尋ねると、相談員は子供の頃、金魚が空中を泳ぐのを何度も見た。きっとそれは金魚じゃなくて死者の魂だと話た。
山田は役所の堤下と一緒に父が生前暮らしていたアパートへ行く。堤下はお父様は丁寧に暮らしていたと思うと話た。
詩織は娘と一緒に夫の墓参りへ。帰りのタクシーの運転手(笹野高史)は、花火師だったから妻の遺骨を花火に入れて少しずつ撒いたと話た。アパートに帰った詩織は、夫の遺骨を噛み、自○慰行為をする。
地震があり、山田の父の骨壷が割れる。山田は社長からもらったイカの塩辛の瓶に骨を移した。
刹那、他刹那、ろうばく、むこりった。これが岡本さんの口癖だった。
カヨコの金魚が死に、山田と溝口、洋一は一緒に川辺に埋めに行く。溝口は、知り合いが金魚が空中を泳いでいたのを見て、魂だと確信したらしいと話す。川辺にあるならないはずの壊れた電話が鳴る。空には巨大なイカのような宇宙人のような紫ののぼりが上がっていた。それを見た島田は俺も連れてってくれ〜と叫ぶ。
山田は1人で風呂に入っていると、島田がやってきてこのまえ前科者と言ってごめん。お前みたいなのが隣に引っ越してきてくれて俺は本当に嬉しいんだぜ。俺バカだから詐欺に何度もあって金を取られた過去があって、お前が少し怖くなってしまったと話す。2人は仲直りする。島田はご飯を食べようとしてイカの塩辛の瓶に骨が入っているのを見てびっくりする。
台風になり、島田は山田の部屋で怯えた。幼い頃に父親が台風の時に芥川龍之介の蜘蛛の糸の話をして、台風の音が地獄にしか聞こえなくなったらしい。山田は7の段を逆から数えろと言った。
台風が終わる。山田は川辺で父の遺骨を砕き始めた。詩織がそばに寄ってくる。山田は自分みたいな前科者がささやかな幸せを感じたらダメだろうか?と涙を流す。詩織はダメなわけない。お父さんのお葬式をしましょうと言った。
溝口は、空の色が生まれて消える時間の流れをムコリッタというのだろうとつぶやいた。
住職のガンちゃんが先頭に立ち、山田がその後ろで散骨し、島田や詩織が続く。一行は川辺を行進する。
考察1:ハイツムコリッタが意味する者
ハイツ・ムコリッタは、死者に寄り添いたい者たちの住処に見えた。山田の部屋には父の遺骨があるし、詩織は亡き夫を未だに思っているし、溝口は墓石売りが商売なので常に死者に寄り添っている。住職のガンちゃんもそうだ。
亡くなった人を想う人を思いやれる。そんな場所なのだろう。
溝口が宙に浮く金魚の話をしたシーンで、彼も“いのちの電話”にかけていたことがわかる。いろいろと追い詰められることがあったのだろう。
遺骨が光ったのは父からの自分を責めすぎるなとのメッセージにも見えた。
考察2:島田の過去
島田にはどうやら息子がいたが、亡くなってしまったようだ。さらに詐欺被害に何度もあっていたことも判明。もしかすると、詐欺にあったせいで病気の息子の治療費が払えなくて…という
島田と山田は、元被害者と加害者の関係なのだ。その相対する関係を結びつけるハイツ・ムコリッタの場所の尊さが浮かび上がってくる。
考察3:ラストシーンの行進の意味
最後は山田の父の葬式と称してみんなで行進して終わる。洋一はハーモニカを吹いているし、詩織は赤い派手な格好をしている。普通の葬式ではない。
これはフェデリコ・フェリーニ監督の映画『8 1/2』(はっかにぶんのいち)』の終盤のシーンのオマージュにも見える。
『8 1/2』では主人公・グイドが「人生は祭りだ。共に生きよう」と語るシーンがあり、ちんどん屋の行進のシーンにつながる。なので『川っぺりムコリッタ』のラストシーンの行進にも「人生は祭りだ。共に生きよう」という前向きなメッセージが込められているのだろう。
考察4:イカの宇宙人のぼり
後半でカヨコの死んだ金魚を埋めにいく山田たち。イカの宇宙人のようなのぼりを目撃する。顔は宇宙人・グレイのようだが、何本もある触手に吸盤が付いていて、イカっぽい。
これも解釈はいろいろあると思うが、工場で山田が捌いているイカに対する供養のような意味が込められている気がする。金魚も供養しなければいけないし魂もある。そしてイカにも魂がある。すべての命に尊さがあると伝えていると感じた。
逆に島田が連れてってくれと叫んだ理由は、彼はそれをイカでなく宇宙人として見たからで、別の世界に行ってしまった息子に会いたいという願いなのだと考える。
満島ひかりの出演作↓
映画『ラストマイル』巨大物流センターの荷物に1ダースの爆弾が仕掛けられた!センター長や物流のみんなはどう解決するのか?真犯人の動機は!? シネマグ 野木亜紀子さんの脚本はやっぱりうまかったな。キャストも素晴らしい!ロッカーに[…]