新海誠監督の超ヒット映画『君の名は。』(Your Name.)のストーリー考察をネタバレありでしています!
感想やヒット理由、彗星・組紐・口かみ酒・産霊(むすび)がストーリーに与える意味を徹底考察しています!
(↓新海誠監督の最新映画『すずめの戸締り』のネタバレ感想レビュー記事はこちら↓)
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映画『君の名は。』ネタバレ感想レビュー
新海誠監督による災害三部作の第1作。
何回見ても不思議なミラクルが感じられる作品です。
- 男女の体が入れかわる設定
- 高校生の初恋の切なさ
- 糸守町の自然と東京の対比
- 彗星がもたらす運命とタイムバック
- 日本古来の神道文化
各要素が絶妙なバランスで相乗効果を発揮しています。
それぞれのシーンもテンポ感もすばらしい。
特にRADWIMPSのテーマソング「前前前世」をバックに瀧と三葉の体の入れかわりを交互に、コミカルに描いているシーンは最高に勢いづいていました。
2人がお互いに惹かれ合いつつも運命に引き裂かれそうなことがヒシヒシと伝わってくるのです。
ストーリー面では、キャッチーな男女の入れかわりだけでなく、実は滝は3年前の三葉と入れかわっていたというどんでん返しも効果的でした。
そして体の入れかわりが単に2人の恋愛をおもしろくする装置としてではなく、糸守町を守る運命として描かれているので、ちゃちな感じがないんですよね。
瀧が3年前に三葉からもらっていた組紐(くみひも)や、神道のくちかみ酒、御神体がある絶景の山頂など、神道にまつわる神がかり的な要素がちょうどいいあんばいでほのめかされているのもストーリーの説得力に大きく貢献しています。
あえてツッコめば論理的なおかしさがないわけでなく、今冷静に見ると、瀧と三葉が入れかわっているときに2人とも「西暦が違う…」と気づきそうなもんです。
まあ、個人的にはぜんぜん許容できるレベルのご都合主義です。
『君の名は。』考察(ネタバレ)
彗星の本当の意味
(※『天気の子』のネタバレも若干あるので注意してください)
東日本大震災のメタファーとして登場したティアマト彗星。
後半に瀧が、彗星が3年前に三葉の集落に墜落して三葉たちが死亡していたことを知りますが、それまでは星に願いを的に非常に美しい光景として描かれていたのが印象深いです。
彗星は両義性(良い面と悪い面)を持っています。
彗星墜落の災害がなければ瀧と三葉の入れ替わりは起こらず、2人が未来で出会うこともなかったからです。
『君の名は。』の彗星の軌道は糸のように描かれていました。ちょど組紐(くみひも)と同じです。
つまり彗星は大災害でありながら、縁結びの役割もはたしているのです。
そう考えると『天気の子』と似ていますね。
東京水没という災害を選択しなければ、帆高は陽菜を救って数年後に会うこともできなかったからです。
新海誠監督の新作『すずめの戸締り』も公開されるので、映画『天気の子』(2019)を見てみました。美しいメッセージがありながら、賛否両論で結末に否定的な意見が多いのもうなづける作品でした。 記事では『天気の子』の忖度ゼロのぶっちゃけ感想[…]
災害はもちろん私たち人類にとって最悪な出来事です。しかし災害に一筋の出会いがそえられていて物語に奥行きがグッとましています。(この新海誠監督の感性が素晴らしいです。)
このテーマは東日本大震災を描いた新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』にも通じます。
どんな悲惨な出来事にも何か希望や光があるはずだ。
そんな儚くも美しいメッセージがみてとれます。
産霊(むすび)・口かみ酒の意味
瀧と三葉が入れかわったのは組紐の結びの力です。
山頂の御神体へいく道中で、祖母・一葉が三葉に「結びの由来は産霊(むすび)からきている」と話します。
漢字からも神霊の力が働いていることがわかります。
つまり人の縁には神霊が宿っているのです。
三葉は家業である宮水神社の巫女であることも含め、神霊的な力で体の入れかわりが起こったのでしょう。
先ほど彗星が組紐を表していて、彗星がなければ瀧と三葉の結びも起こらなかったと書きました。
産霊=結びと考えると、彗星は厄災でありながら何らかの神も宿していることになるのではないでしょうか。
善悪の概念ではなく、すべては結び(産霊)によって起こっているということでしょう。
糸守町には1200年前にも彗星・隕石が落下して糸守湖が誕生しました。
祖母・一葉は「行事や伝統がなぜ現在行われているか文献が残っていないからわからない」と言ってましたが、きっと伝統行事は隕石から人々を守るためにはじまったのでしょう。
作中では描かれていませんが、瀧と三葉を結びつけた口かみ酒も1200年前頃からはじまり、一葉ら家系の女性たちは口かみ酒を飲んだ男性と入れ替わる経験をして、三葉に体の入れかわり能力を継承したのではないでしょうか。
『君の名は。』は1200年前からの物語であり、きっと1200年後にも新たな物語が生まれることでしょう。
パラレルワールド
ラストは隕石の衝突前に瀧が三葉といれかわって危機を伝えたおかげで住民が避難できてめでたしめでたし。数年後に瀧と三葉は出会えたよ!というハッピーエンドです。
SFでよくあるパラレルワールド(平行世界)には触れられていません。
パラレルワールドとは過去が変わることで未来が分岐してしまう現象です。
『君の名は。』も実際はハッピーエンドの未来がパラレルの可能性もあると思ってます。
つまり飛騨の山頂で三葉とシンクロしたものの、三葉が生き返らなかった世界線が存在するということです。
深読みしてしまえばティアマト彗星が2つに分裂する光景も世界線の分岐を表現していたのかもしれません。
スマホのメールが消えたりしているのでパラレルワールドは前提とされておらず、この世界自体が書き換えられている可能性のほうが高いですが、平行世界を考慮するのであればそんな解釈もできます。
『天気の子』では逆に帆高が東京水没を選択しますが、それも無数にある世界線の1つではないでしょうか。
帆高が陽菜が生き返ることをあきらめ、東京がいつもの気象に戻る世界線もあるような気がします。
まとめ
『君の名は。』は2016年にはじめて映画館で見たときも度肝を抜かれましたが、『すずめの戸締り』が公開される前に改めて見なおしてみても、やはり最高でした。
何度見ても色褪せないですし、見るたびに新しい発見・新しいメッセージが感じ取れるのです。
日本だけでなく世界中でヒットしたのもうなづけるクオリティと普遍的なテーマがあります。
『天気の子』(2019)や『すずめの戸締り』(2022)は個人的には『君の名は。』に勝るかといわれればそうではないと思いますが、これからも新海誠作品を応援し続けたいです。
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