考察(ネタバレ)
ラストの意味
フローレンス・ピュー演じるアリスはラストでどうなったでしょうか。
暗転したあとに大きく息をする音が聞こえたので、現実社会に戻れたのだと思います。
そのまま現実に出ても秘密を知っているのでクリス・パイン演じるフランクに殺される可能性がありましたが、フランクは妻のシェリー(ジェンマ・チャン)に殺されました。
シェリーは夫を恨んでいたようなので共同体のシステムは解体されるのでしょう。シェリーもまた夫を支える妻として抑圧されていたのです。
男性優位社会のメタファー
男は仕事!女性は家をキレイにして夫を支える!
男女の役割分担がはっきりしたステレオタイプの共同体ですね。
女性は家周辺から遠くへ行くことは許されず、夫が何をしているかも知らない。古き良き1950年代のアメリカはこんな感じだったのでしょうか。
この共同体は決してフィクションではなく、現実の男性優位社会をそのままミニチュアにしたようです。
映画での描きかたはやや極端ですが、世界中で女性が男性のために家に抑圧される時代が長く続いていました。そして現在も多少緩和されたとはいえそういう風潮が残っています。
「ドント・ウォーリー・ダーリン(愛しい人、心配しなくていいよ)」と甘い言葉をささやいていても、その裏に女性への抑圧があるのです。
(ちなみにヴィクトリーコーポレーション(共同体)はタレントのヒュール・ハウザーさんが所有していたカリフォルニアのボルケーノハウスがもとになっているようです。)
フランクの目的
マトリックスみたいなプログラムを開発したフランクがそれを使ってやりたかったのは、彼があこがれている古き良きアメリカの再現。
古き良きとはフランクみたいな男性からみてそう見えるだけかもしれないのに、あたかもそれが正しいように住民を洗脳しているわけです。
ようは世界中を旧世代の思想に戻したかったのでしょう。
劇中でも混沌(こんとん/カオス)は悪で、コントロールや秩序が善とされていました。多様性(ダイバーシティ)の否定です。
フランクを演じたクリス・パインは渋いイケメンだし、女性にもそれなりに気を遣っているしぐさも見せます。
しかし、女性の人生は男性の作品だと言っているようで、よく考えると非常に怖い。
あまりいい言葉でないですが、女性の尊厳を踏みねじる傲慢(ごうまんさ)さに吐き気がします。
素晴らしい頭脳とカリスマ性を持ちながら、目的は男性優位社会を作ること!
言葉にしてみるとすごくダサいですね(笑)。
共同体の仕組み
共同体の詳しいシステムについては語られておらず、解釈の余地が残っています。
まず主人公・アリスの旦那ジャックは、フランクの思想に共感して共同体に申し込みました。
実態は、アリスをベッドに縛り付けて頭と目に特殊な装置をつけ、仮想空間を見せそこで楽しく暮らすこと。
ジャックは本部に行けば目覚めることができ、昼は現実社会で普通に働いて夜だけ仮想空間でアリスと過ごしているようです。
要はバーチャル空間ですが、アリスが飛行機が墜落を目撃したことについて疑問が残ります。
単にシステムのバグなのでしょうか。
もしくは共同体の土地は現実にあり、アリスたちの意識がそこに転送されている仕組みなのかもしれません。
共同体が完全にバーチャルであれば、女性たちに過度な行動制限を強いる理由もない気もします。まあ強いて理由がなくてもフランクは女性を家に縛りつけたかったのかもしれませんが。
最後のまとめ
『ドント・ウォーリー・ダーリン』は、芸術性とメッセージ性を兼ね備えた映像美とフローレンス・ピューの迫真の演技が楽しめた良作でした。
もしくはオチを過度に期待させない工夫があればなおよかったと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『ドント・ウォーリー・ダーリン』レビュー終わり!
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