ロッキーシリーズのスピンオフ作品である、映画『クリード2炎の宿敵』を観賞。
ロッキーシリーズには個人的な思い入れも強く、「つまらなかったらどうしよう…」といういらぬ不安がよぎってしまうのだが、クリード2の完成度は並並ならぬほど高く、期待を上回る感動に体を委ねることができた。
では、クリード2炎の宿敵のなにがそんなに良かったのか!?解説や考察をしていきたい。
ロッキーの魂を継承しているクリードはスピンオフでなく、正統な続編だ。
映画『クリード2/炎の宿敵』ネタバレ感想
クリード2炎の宿敵は、ロッキー4(1985)の宿敵イワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の息子ヴィクターが出てくるので、ロッキー4のストーリーを踏襲している。
さらに主人公である、アドニス・クリードが敵役であるヴィクターと2回対戦するところを考えると、ロッキー3(1982)のストーリーとも重なるから面白い。
アドニスがボロボロ過ぎるところが良かった
アドニス(マイケル・B・ジョーダン)はヴィクター(フロリアン・ムンテアヌ)に挑発され、文字通りボロッボロに負けてしまうのだが、(肋骨が2本折れ、眼窩も骨折・・・)この負けっぷりは完全にロッキー3以上だ。
ロッキー3では師匠ミッキーの死はあるものの、スポ根エンタメ的な要素が強かったことに対し、クリード2では、負けっぷりをとてもにシビアに描いている。(実際はヴィクターの反則負けだが)
ヴィクターにボロ雑巾のように打ちのめされ、病院で恋人のビアンカに慰められ、ロッキーに悪態をつくアドニスは、心身ともに真の敗者になってしまった。
しかし、本当の敗者になったからこそ、ロッキースピリッツを体現した後半の筋書きが完璧なものになったと言えるだろう。
ミッキーの面影を見せるロッキー
ロッキーが元師匠のミッキーのように、アドニスがヴィクターの対戦を受けないよう、ワザとらしいお世辞を言うところが非常に考えさせられる。
若い頃のロッキーなら、アドニスを持ち上げるためのお世辞など決して言わなかっただろう。
しかし、老いたロッキーはアドニスを守るため、「アイツは荒削り、最高のボクサーはお前だ」とワザとらしく話す。まさしく、ロッキー3でクラバー・ラングとの対戦を避けさせたかったミッキーそのものだ。
これはロッキーというキャラクターへの冒涜だろうか?いや、それは違う!
血気盛んだったロッキーも、今や老人。大切な存在を守るためなら、自らをピエロ役に貶めることができると解釈できるだろう。
ロッキーは、ミッキーと立場も言動も同じになった。ミッキーの気持ちも、その発言の瞬間、理解したのかもしれないと思うと、胸が熱くなる。
映画『クリード2/炎の宿敵』アドニスVSヴィクター結末 ネタバレ解説
ロッキーシリーズのファンのみならず、この作品を単体で見た人にとっても、アドニスVSヴィクターの結末は、心をひた打つものになったことだろう。
ここでは、なぜその結末が、非常に感動的なものになったのか、主に演出面から紐解いて行こうと思う。(ヴィクターに関することが多いが)
感情移入がアドニス→ヴィクターへ劇的変化
アドニスが何度もダウンし暗転する場面で、彼に対する感情移入はピークに達する。
そこから、一気にヴィクターを攻め、倒すのかと思いきや、今度はアドニスにボコボコにされるヴィクターに主眼が切り替わり、彼が根性と鉄の意志を見せ、何度も立ち上がってくるのである。
この感情移入する対象の変化は意外性もあり、切り替わりの速さやタイミングが、実に巧みだった。
涙のタオル投入、ある意味イワンがロッキーに勝利!
ロッキーから見たイワン・ドラゴ(父)は、ヴィクターがアドニスにボコボコにされるのを見て、彼の母ルドミラ(ブリジット・ニールセン)と同じく、その場を去るかと思わせ・・・息子のヴィクターに近づき、何とタオルを投入!
タオル投入も予想できなかったが、その前に一旦イワンが去るようなカットが入っていることで、試合終了が劇的なものになったことに気づいただろうか!?
ロッキーへの復讐の鬼かと思われたイワンだが、先に敗北を受け入れ、息子を守ったのだ。
何か気づいただろうか!?
イワンはタオル投入で息子を救った。33年前にタオルを投入できずアポロを死なせてしまったロッキーに、その面では勝利したと言えるだろう!
イワンが過去のロッキー戦の敗北をも受けとめ、心が未来へ進むことができた瞬間である。
打ち続けるヴィクターの意志
試合が終わっても立ち続け、パンチを繰り出そうとするヴィクターの姿に、涙した人は多いだろう。彼も人生をかけてこの一戦に望んでいたのだ。
この描写だけで、ヴィクターが父のイワンと共に、過酷な状況の中、必死に生き抜いてきたとわかる。
それまでのシーンではロッキー4の、ロッキーVSイワン・ドラゴの被害者や負の遺産的に映っていた彼だが、そんなことはない。彼も人に感動を与えられる偉大な”ファイター”に育っていたのだ。
ロッキーVSドラゴの物語が、素晴らしい完結を遂げた瞬間だった。
短時間で効果的に垣間見えたドラゴ親子の物語
視聴者がドラゴ親子に感情移入していた時間は、全体で考えれば、非常に短い。
逆に言えば、我々は非常に短い時間でドラゴ親子の心情を堪能することができたのだ。
もし冒頭や中盤で、ドラゴ親子が今まで苦労してきたシーンに時間を割き、不用意に描いてしまっていたなら、結末の意外性も深さも損なわれていたかもしれない。
無口なドラゴ親子は、短い時間の行動で、自分たちの物語すべてを語ってみせたのだ。
映画『クリード2/炎の宿敵』ネタバレ考察/3つの家族の再生の物語
ロッキーシリーズはスポ根要素だけではなく、ヒューマンドラマ的な部分に常に主眼が置かれているが、クリード2では、このヒューマンドラマも非常に美しかった。
理由は、3つの家族の再生が描かれたことだと考える。一つの物語で、3家族が幸せになったのだ。素晴らしいと思わないだろうか?
具体的に挙げると、
- アドニスの父親に対する理解
- 復讐から、自分たちの道を歩み始めたドラゴ親子
- 音信不通の息子に会いに行き、孫と遊ぶロッキー
それぞれ家族間で理解を深め、お互い幸せな、新たななる段階に進むことができたのだ。
冷戦の終わり 人類が向かうべき新たなステージ
1985年のロッキー4でわかりやすく象徴されたものは何だろう!
アポロの死を乗り越え、アメリカの期待を背負ったロッキーの勝利?自国ロシアで敗北し、地位も名誉も妻も失ったドラゴ?
この2つを視点を大きくして比較してみると、アメリカとロシア(旧ソ連)の冷戦構造とアメリカの願望が見えてくる(決して大げさではなく)。
ロッキー4の結末では、イワン・ドラゴは対決に負け全てを失った敗者となる。
しかし、クリード2の結末はどうだろうか?
勝利したアドニスのみならず、ヴィクターも闘志を持ったスーパーファイターとして、世界から喝采を浴び、再起を期待され、父イワンのように忘れさられることは決してないだろう。
クリード2は勝負の勝者と敗者はいても、尊厳を踏みにじられ、全てを失うものは誰一人としていないのだ。それどころか、登場人物全員が(ルドミラ以外w)、かけがえのないものを得た対戦だった。
アポロ、イワン、ロッキーなど、父親世代が作ってしまった憎しみの連鎖を昇華させることに成功したといえるだろう。
アメリカとロシアの東西冷戦構造で混乱させられた、または混乱している国や地域は非常に多い。これらの国がロッキー4ではなく、クリード2と同じような結末を迎えることができたなら、どんなに素晴らしいことだろう。
国に置き換えるのは非現実的かもしれないと考えながらもヒントはある。クリード2はそんな果てしない理想を心に抱かせてくれた。
スタローンの挑戦は続く!
何と2024年で78歳のスタローン。現在も第一線でバリバリのアクション俳優として活動している。
一般人なら骨と脂肪だけになっていそうな年齢で、スタローンはムキムキである。
すごいのは、70年代のロッキーに始まり、80年代、ロッキーシリーズやランボーシリーズ。90年代はデモリションマンやクリフハンガー。2000年代もドリヴン、ロッキー・ザファイナル、ランボー4で話題を読んだ。どの世代においても、常に世界のアクション映画の主役であり続けていたのだ。
2010年代、すでに還暦を過ぎたスタローンはさらにギアを加速させ、エクスペンダブルズや大脱出シリーズ、クリードシリーズなど、新しい企画で大ヒットを連発。もはや化け物としか言いようがない。
そして常人離れした活躍以上に我々の心を震わせるのが、いつの時代も挑戦し続けるということ。
それも半端なものではない。50歳をすぎてから、ロッキーやランボーの続編を作ることは、家族や周囲からものすごい反対を受けただろうし、アクションスターを集めたエクスペンダブルズなど、もし失敗すれば、一気に笑い者である。
周囲の不安とは裏腹に、スタローンは新しい要素をドンドン盛り込みながら、それらの作品を成功させていった。
気合いと人間性で逆境をすべて跳ね除けるのが、スタローンという男なのである。
映画『クリード2/炎の宿敵』のトリビアやツッコミどころ
負ける感ムンムンの初戦
アドニスVSヴィクターの初戦は、映画開始からたった40分ほどあと、そしてトレーニング描写も少なければ、ロッキーもアドニスについていない。誰もが「ああ、1回負けるんだね」とすぐにわかったことだろう。
しかし、期待を少し裏切るために、ヴィクターの反則負けにした演出はさすが。
セコンド声小さい!
アドニスVSヴィクターの初戦でアドニス側のセコンドをつとめるのが、トレーナーのリトル・ディーク(ウッド・ハリス)なのだが、試合中リングの外でアドニスにアドバイスをする彼の声量が小さく「それじゃ選手に聞えないだろう」と思ってしまった。
炎天下で血を吐きながらド根性特訓
ロッキーシリーズでは、理論無視?なド根性特訓が一つの見ものなわけだが、今回すごかったのは、室内ではなく、周りに岩や砂漠が広がる屋外炎天下の練習場で特訓を行なったこと。
果たして炎天下でトレーニングすることに意味はあるのか(笑)?
アドニスもロッキーにヘヴィボールで腹部をなんども叩かれて血を吐きながらトレーニングしてるし・・・
幾ら何でも体が壊れないか心配になった。
クリードのボクシングが上手くない
ヴィクター・ドラゴ役のフロリアン・ムンテアヌはルーマニア出身の本物のヘビー級プロボクサーなようで、彼のボクシングについては全く問題ない(フロリアン・ムンテアヌはマーベルMUC『シャン・チー/テン・リングスの伝説』にヴィランのレーザー・フィスト役で出演)。
しかし、アドニス役の マイケル・B・ジョーダンのボクシングは、今回も少し不器用に見えてしまった。構え方が堂に入っていなかったり、パンチが下半身と連動していないように見えたりしたので、もう少しカッコ良くできないものかと感じてしまった。
イワンは妻までロッキーに取られた!?
スタローンは1985年にルドミラ(ドラゴの元妻)役のブリジット・ニールセンと結婚している。ドラゴはロッキー4でロッキーに敗れ、地位も名声も全て失ったが、見方によっては自分の元を去った妻もロッキーに取られたのだ(笑)
ビアンカについて
ヒロインのビアンカ役が綺麗だったので気になった人もいるだろう。
ビアンカ役はテッサ・トンプソン。最近では『マイティ・ソー バトルロイヤル』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『メン・イン・ブラック:インターナショナル』、ドラマ『ウエストワールド』などに出演しているキュートな女性。
最後のまとめ!
クリード2の解説や考察に満足していただけただろうか?それとも物足りなかっただろうか?いずれにせよ、2019年に歴史に名を刻むような最高の映画が作られたことは素直に喜べるだろう。
ボクシング、家族(父と子)、父親世代の負の遺産の解決
(負の遺産の解決という意味では、世界から争いの無い世の中を作り出すヒントが隠されているかもしれない。)
3つの大きなテーマを存分に楽しめるクリード2 炎の宿敵をまだ観ていない人が周りにいたら、絶対に勧めてあげよう!!
- アクション, ヒューマンドラマ
- シルヴェスター・スタローン 出演作品, ネタバレ, 全話あらすじ, 感想, 登場キャラ・キャスト, 考察
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