映画『イニシェリン島の精霊』は中年の親友同士が絶交し、思いがけない行動を取る斬新すぎるヒューマンドラマ!
作品情報・キャスト
ネタバレなしの感想
ぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)
ラストや“あの行為”の意味考察
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
作品についての視聴者・口コミアンケートも投票お願いします↓
映画『イニシェリン島の精霊』作品情報・予告
制作国:アイルランド・イギリス・アメリカ合作
上映時間:1時間49分
原題:『The Banshees of Inisherin』
ジャンル:ヒューマンドラマ・コメディ・サスペンス
年齢制限:PG12(12歳以下は保護者の指導が必要)
監督・脚本:マーティン・マクドナー(『スリー・ビルボード』)
撮影:ベン・デイヴィス
音楽: カーター・バーウェル
2023年の第95回アカデミー賞で9部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞×2、助演女優賞、脚本賞、作曲賞、編集賞)にノミネートされている傑作です。
『イニシェリン島の精霊』キャスト
さえない男性パードリックを完璧に演じたコリン・ファレルがすごすぎます。ちょっと抜けてる男というのはカッコいい役とか、狂気的な役よりも格段にむつかしいと思いますが、さすがとしか言いようがない説得力でした。
コリン・ファレルは最近だと『THE BATMAN-ザ・バットマン-』でペンギン役もインパクト抜群でしたけど、どんな役にもなれるまさにカメレオン俳優ですね。2023年の第95回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされています。
親友コルム役のブレンダン・グリーソンは、もはやこの人じゃないとこの映画が成り立たなかったレベルです。人の良さそうな体格からにじみ出る狂気…。アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされています。
変な青年・ドミニクを演じたバリー・コーガンの相変わらずの変人っぷりも最高。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』のジョーカー役も印象的でした。『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』でもコリン・ファレルと共演してましたね。バリー・コーガンもアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされていますが、個人的にはブレンダン・グリーソンにゆずってほしい気がします。
そしてなんと主人公の妹シボーン役の女優ケリー・コンドン(ホラー映画『ナイトスイム』2024にも出演)もアカデミー助演女優賞にノミネートされています。
『イニシェリン島の精霊』あらすじ
1923年。アイルランド本島では内戦が続いていた。
いっぽうイニシェリン島ではいつもと変わらない生活が続く。
島のパードリック(コリン・ファレル)とコルム(ブレンダン・グリーソン)は毎日昼の2時になるとパブに酒を飲みに行く親友だった。
しかしある日、パードリックがコルムの家に呼びに行っても彼はムスッとして返事もしない。
パードリックは先にパブへ行くが、あとからやってきたコルムはやはり自分に喋りかけてこない。
パードリックは自分が何か怒らせるようなことをしたか?とたずねた。
コルムは「人生をお前の退屈な無駄話についやして何も残さないまま死ぬのは嫌だ」と絶交を宣言する。
パードリックはひどくショックを受けた。
パードリックは一緒に暮らす妹のシボーン(ケリー・コンドン)に俺は退屈か?とたずねる。
シボーンははげますために、そんなことない、あなたは優しい人だと嘘をついた。
パードリックは前日がエイプリルフールだったと気づいてまたパブでコルムに話しかけるが、バイオリンで曲を作るからもう口を聞かないでくれと言われる。
コルムは「次におまえがしゃべりかけたら自分の左手の指を1本切り落とす」と覚悟をしめした。
島で笑いものの若者ドミニク(バリー・コーガン)は試しに話しかけてみろと言うが…。
ネタバレなし感想・海外評価
エンタメ性ゼロなので見る人を選びますが、意味不明な部分はありつつも人生の本質的な部分に気づけるような斬新な作品です。
中盤から後半にかけてはあっと飛び上がるような展開もあります
演技・演出・テーマ性のすべてに優れた傑作で、海外のレビューサイトの評価も非常に高いです。
斬新かつハイクオリティな人間ドラマを見たい人にオススメします。
おすすめ度 | 85% |
離島の世界観 | 90% |
ストーリー | 90& |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.8(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 97% 一般の視聴者 76% |
メタスコア(Metacritic) | 87(100点中) |
※以下、『イニシェリン島の精霊』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『イニシェリン島の精霊』ネタバレ感想・評価
1920年代アイルランドの独特な島社会の雰囲気によって友情の破壊から人間の本質があぶりだされた傑作でした。
パードリックとコルムの友情が唐突に終わるところから物語がはじまります。
狭い島がすべてのパードリックにとって、コルムとの友情が終わることは人生最大の事件です。
はたから見れば小学生レベルのケンカですが、本人たちにとっては内戦レベル。本島ではアイルランド内戦が勃発しており、2人の関係と対比の構造です。
コルムはパードリックを近づけないように自分の指を切り落とします。それでもパードリックはコルムから離れられません。
友情の本質を狂気的に描くアプローチが斬新でした。
友情は体の一部と同じくらい尊い。しかしそれを犠牲にしても何かを成し遂げなければいけない時もあるという両儀的(どちらともとれる)なメッセージを感じました。
人間が抱える矛盾を静と動、両方の面から映し出したコンセプトがすばらしいです。
マーティン・マクドナー作品は『スリー・ビルボード』も好きでしたが、個人的に今作はそれを超えたと思います。
『イニシェリン島の精霊』考察(ネタバレ)
ラストの意味
ラストでコルムから犬の世話をありがとうと言われたパードリックは「Anytime(またいつでも)」と返してました。
2人に友情が戻ったという意味でしょう。(日本語訳では「お安い御用だ」となっていて少し意味が伝わりにくいような気が)
パードリックは「終わらないほうがいいものもある」と言っていましたが、それも内戦ではなく友情をさしているのだと思います。
2人は仲違いしたままとも取れますが、個人的には多大な犠牲を払って友情は復活したという結末に感じました。
内戦で分かれた北アイルランドとアイルランド共和国とは違う、一筋の希望がある結末を示唆していたのではないでしょうか。
コルムが指を切った理由
コルムが左手の指を全部切った挙句、パードリックはロバが死んだ仕返しでコルムの家を燃やす。めちゃくちゃです(笑)。
そこから浮かび上がってきたテーマは、友情の重さでしょう。
友達に絶交されたくらいでお互い狂気に走りすぎです。
しかし逆にいえば、それだけ本気の友情だったということ。
いっぽうコルムは作曲という使命にかられてパードリックとの友情をいったん捨てました。
指を切ったのは友情がそれほど大きかったという証明です。
パードリックはコルムに無視されてから、人生のすべてを失ったような表情を見せ、コルムに対して憎しみを募らせていきます。
これも可愛さ余って憎さ百倍ということでしょう。
それほどコルムとの友情を大切に思っていたからこそ、逆に家を焼くという暴挙に出たわけです。
(友情が大切でなければ、何もしないで放っておけばよいだけですから。)
『イニシェリン島の精霊』は家や指の破壊と喪失によって、天秤の反対側にある友情や人間関係の重さをあらわしたのです。
少し違う視点でいえば、指を失うこと=内戦で領土を取られることのメタファーだとも考えられます。
いずれにせよ、争いによる代償が、思想や友情など争いの原因となったものの尊さを浮き彫りにするようなコンセプトがあると感じました。
イニシェリン島の精霊の正体は?
島のどこにでも現れる死神のような老婆ミシーズ・マコーミックがイニシェリン島の精霊のように描かれていました。
コルムは作った曲の題名をイニシェリン島の精霊とし、「精霊は死を眺めてあざけり笑っている」と言ってました。
精霊のイメージがいつも笑っているマコーミックに重なりますね。
さて、マコーミックは2人死ぬと言っていましたが、実際に死んだのはドミニク(バリー・コーガン)だけです。
死んだのがドミニク1人であれば、マコーミックの予言が間違っていたことになります。
マコーミックはパードリックとコルムが死ぬと示唆していたのでしょう。
そう考えるとパードリックとコルムの友情がイニシェリン島の精霊に勝ったという解釈もできるのではないでしょうか。
ドミニクはなぜ死んだ?
ドミニクはシボーンに告白してフラれたあとに死んでいるので、湖で自殺した可能性があります。
ひょうひょうとしているようでシボーンにフラれたあとは生きている意味がないと感じたのかもしれません。
ドミニクもまたコルムと同じく二面性のある人物なのです。
パードリックによるとドミニクは保安官の父親から性的虐待を受けていた可能性もあるので、いつもお間抜けなおしゃべりをしているいっぽうで、心は壊れかけていたのかもしれません。
パードリックが音大生にひどいウソをついたときも見放しましたしね。
推測になりますが、ドミニクの死を悲しんだ父親があと追い自殺をしていたとすれば、マコーミックの予言が正しかったとなるでしょう。
ドミニクの父・保安官は残忍な人物でしたが、彼もまた二面性を持っていたような気がします。
作品のテーマ、能面の解釈
『イニシェリン島の精霊』のテーマをあえていうなら、先ほど解説した友情の重さと、人間の二面性です。
耳を切り落としたゴッホのごとくの狂気の芸術家だったコルム。
おそらくパードリックは彼のこの面に気づいていなかったのでしょう。
コルムの家につり下げられてあった能面や般若面(鬼の面)は、表の顔と裏の顔は違う、人は誰でも二面性を持つメタファーとして飾られていたようです。
シボーンも結婚できなくて中年になってしまったことをひどく悔やんでいました。
ドミニクもひょうひょうとしていて裏がありそうでした。
妹や友人たちはみんな仮面をつけていたわけですが、パードリックはそれに気づいている様子もありません。
イニシェリン島はいつも通りの日々で、対岸のアイルランド本島では内戦中というのも二面性です。
急に半音上に転調するようなメインの劇伴も、人間の二面性を表現しているようでした。
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