NHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』で『シン・エヴァンゲリオン劇場版』制作中の庵野秀明監督を見て、かなり赤裸々でショッキングな内容に驚いた。
シン・エヴァに感動したひとりとしての感想や、明らかになった具体的な制作方法などについて解説や考察をしてみる。
ジブリの宮崎駿は「庵野は宇宙人」と語っていたのも面白かった。それだけ変人なのだろう。ドキュメンタリーから血の滲むような努力と葛藤なども感じられた。
アニメ版の最終話に対するアンチスレで自殺願望
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1995〜96年に放送されたアニメ版エヴァの第25話・26話が、シンジやアスカなどの心情描写を意味不明な映像で綴った感じで終わった。(制作が間に合わなかったらしく、のちに『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に(1997)』が作られた。)
このとき「庵野は作品を捨てた!」と熱心なファンがアンチになり、ネットで“庵野殺害方法スレッド”まで立てられたらしく、本人はそれを見て自殺しようと本気で思ったが、「痛そうだから」やめたらしい。
しかし、それがきっかけでメンタルが崩壊して鬱になったようで、ジブリのプロデューサー・鈴木敏夫にはげまされてやっと実写映画『式日』(2000年)を作りはじめたようだ。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年)が公開後、すぐに『シン・エヴァンゲリオン』の制作に移る予定らしかったが、鬱を発症して4年間ほど延期になったようだ。
本当に命を削ってアニメを作っているのが伝わり、心が締め付けられた。
シン・エヴァのシンジとマリは庵野とモヨコ
庵野秀明の『プロフェッショナル仕事の流儀』で妻・安野モヨコさんのインタビューがあり、偏食家でお菓子しか食べずに病気まっしぐらだった庵野の食生活をモヨコが変えたらしい。
モヨコがいなければ新劇場版は見られなかったかもしれない。
さらに庵野がどんなに苦しい時でもモヨコは「みんながいなくなっても私はいなくならない」と言ったらしい。
シン・エヴァのラストでシンジはレイやアスカを救い出すが、自分は一人取り残される。
そこにやってきたのが真希波・マリ・イラストリアスなわけだけど、庵野とモヨコってシンジとマリそのものだなと感じた。
ネタバレ/庵野の父がエヴァに与えた影響
庵野監督のインタビューによると、父親が事故で左足を失っており、それがロボの腕が取れるなどの不完全嗜好につながったらしい。そして庵野の父はいつも世の中を憎んでいたようだ。
シンジの父・碇ゲンドウも社会を憎んでいるキャラだったので、庵野監督の父親を投影させたのだろう。
映画『シンゴジラ』の牧教授にも庵野監督の父親が投影されている印象だし、ゴジラの最初に腕が欠損したような形態も、もしかすると父親の影響かもしれない。
スタッフのアイデアを消去法の材料にする庵野
「これまで長期取材が許されなかった制作現場を余すことなく記録」
録画予約もしてるけど、
今日は早く帰って観たいです!!「 #エヴァンゲリオン」総監督・ #庵野秀明 氏を特集した「#プロフェッショナル 仕事の流儀」が本日放送https://t.co/xYlVWSqJq1
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2017年9月から始まったシン・エヴァンゲリオンの制作現場が非常に興味深かった。
庵野はスタッフのシーンのアイデアなどに意見をあまり言わず、「これじゃないことだけわかった」としか言わないのだ。
スタッフのアイデアを消去法の材料にする庵野監督に狂気を感じたが、面白いとも思った。アイデアをたくさん出させてそれを選択肢から除外すれば、よりクリエイティブな作品があがるだろう。
例えるなら“切り絵”だ。
消去案をどんどん切っていけば、庵野監督が自分で考えつく以上のアイデア、かつ斬新なものになっていく。
芸術家肌に加え、超合理主義的な一面を持っているのが庵野なのだと感心した。
スタッフにどちらの案を採用するか尋ねられた時も、「今はまだわからない」とあっさり答える。ここからも、「今ここに時間を使っても正しい答えは出ないのでムダ」と考える論理思考がうかがえる。
アイデアを出すスタッフは大変だろうし、消去案として使われるのは可哀想だけど、その根底には、同時に誰も作れなかったような革新的な作品を作ろうとする強い意志があるのだろう。
仕事に関しても、スタッフに任せたはずのプリヴィズ(流れの設計のための映像)が使えないからと途中から全部自分でやり出したりする。
スタッフの仕事を破壊して再構築。そこにある狂気。
そこから『シン・エヴァンゲリオン』が生まれたのだ。
自分の頭にある想像を超えたいアート思想
庵野監督は自分の頭のアイデアや想像から物語を作っても『序・破・Q』と同じようになり、エヴァを終わらせられないと考えたようで、自分の外にあるものを求めた。
自分が想像できないアイデアを得るために、モーションピクチャーで役者に演技をさせて(第三村のトウジの家での食事シーン)、それを見ながらアングルをひたすら追求したり、プリヴィズを制作したりした。
これは近代芸術の考え方に近い。絵画ではシュールレアリスムという分野があり(ダリやマグリットが有名)、技法の一つに考えずに筆を走らせる“自動筆記”というものがある。
そうすれば作品は自分の想像を超えた作品ができるということだ。
潜在意識で絵を描いているとも言えるし、偶然に神が宿ると言い換えることもできる。
『シン・エヴァ』がそうやってできていると知り、非常に興味深かった。
宮崎駿の庵野評
庵野監督は『風の谷のナウシカ』のラストシーンで巨神兵が溶けながら破壊をし尽くすところのアニメーションを担当した。
さらに庵野秀明は宮崎駿監督の『風立ちぬ』で主人公の声を務めている。二人は一応師弟関係らしいが、もっと深い繋がりがありそうだ。
当時を回想する宮崎駿監督曰く、「庵野は宇宙人」「いつ寝てるかわからないほどずっと職場にいた」らしい。
アニメを描く腕も一流で、若い頃から情熱も並大抵のものではなかったようだ。