『ブレイキング・バッド』ウォルター・ホワイトを徹底考察!ソシオパス?全シーズンネタバレ解説,ラストの感想

  • 2022年4月26日

最高の海外ドラマとの呼び声も高い『ブレイキング・バッド』。

なぜ面白いのか。理由はシンプル。

登場人物の心理描写が深いから。

この記事では、シーズン1〜ファイナルのシーズン5まで、主人公・ウォルター・ホワイトの周囲で起こった主な出来事をピックアップ。

そして、彼の心理状態がどのように変化したのか?

変化した理由は何なのかをネタバレありで徹底考察。

全シーズンのウォルター・ホワイトの変貌を見ていくと、『ブレイキング・バッド』が何倍も面白くなる。

ウォルター・ホワイト/ブライアン・クランストン

ウォルター・ホワイトは、肺癌で余命宣告を受けた50歳の主人公。

落ちぶれた元天才化学者から、泣く子も黙るメス(ドラッグ)製造者・ハイゼンベルクとなった。

大学院にいた頃のウォルターは、化学の分野への貢献で賞をもらうほどの優秀な学者。

その後、ウォルターはエリオットやグレッチェンと共同で会社を作る。しかしプライドの高さから会社を去り(グレッチェンを巡る三角関係が原因)、いくつかの研究室を転々としたのちに、高校の化学教師と洗車のバイトを掛け持ち。

シーズン1 余命宣告+メス作りで自尊心を保つ

ブレイキング・バッド シーズン1のウォルターホワイト

シーズン1でウォルター・ホワイトに起こった出来事のポイントは、

  • 肺癌による余命宣告で金を残したい
  • 化学者としての評価を受けるには、ドラッグ製造しかなかった

という2点。

ウォルター・ホワイトは肺がんで余命宣告を受け、家族に今後の生活費約7,000万円を残すために、覚醒剤メタンフェタミン(通称メス)の製造を開始した。

シーズン1では、金が貯まったら足を洗うという軽い気持ち。妻のスカイラーも妊娠していて夫婦関係はアツアツ、家族命だった。

しかしトラブルから、ウォルターはドラッグ・ディーラーのクレイジー・エイトを監禁して殺害してしまい、初めての殺人に精神的なショックを受ける。

一方で、作り上げたドラッグ(メス)の純度の高さに、化学者としての誇りを取り戻した。

詳細に描かれてはいないが、若い頃会社を共同経営していた恋人グレッチェンの元を離れ、彼女は同じく共同経営者のエリオットと結婚。ウォルターは会社を去ったという背景がある。

その親友カップルが取得した特許は大注目され、化学者として大成功を納めたので、蓄積された嫉妬心は相当なものだったのだろう。

大好きな化学への愛情が、メスの評価でしか満たされなくなってしまったのだ。

シーズン1のウォルター・ホワイトの心理考察・感想

『ブレイキング・バッド』のシーズン1を観て、ウォルターが家族想いのいい奴だ!と思ったら大間違い

いいオジさんがだんだん悪いヤツに変化していく話として観ると、『ブレイキング・バッド 』の魅力は半減する。

ウォルター・ホワイトの心の奥底に眠る悪をしっかり見つめてこそ面白い。

想像してみてほしい。

自身のプライドと化学者としての成功を奪っていったグレッチェン夫妻に対する嫉妬は、人生を狂わせるには十分だろう。そこにプラスして余命宣告である。

「自分の人生を生きてこなかった」ウォルターはそう悟ったのだ。

ウォルターは、決してイヤイヤ麻薬製造をやっているのではない。

深層心理では、今までの鬱憤を晴らすように、破天荒な出来事、金儲け、メス製造の腕を認められていくことを、大いに楽しんでいるのだ。

さらにいえば、ウォルターは高校教師という指導者にも関わらず、若者が堕落する大きな原因の覚醒剤の製造に、手を染める。

彼が決して良い人間ではないとわかるはずだ。

シーズン2 ウォルターが大惨事を引き起こす

ウォルター・ホワイト/ブレイキング・バッド シーズン2

ウォルター・ホワイトが、自身の心の変化をしっかりと見つめたのがこのシーズン2

シーズン2の出来事のポイントは、

  • ジェシーの彼女、ジェーンを見殺しにした
  • ジェーン死亡によって、100名以上が死ぬ飛行機事故が発生

シーズン2からウォルター・ホワイトの変身が始まった。

そして皮肉なことに、治療のおかげで癌もしばらくは心配ないという結果に。

ウォルターは、ジェーンがドラッグのオーバードーズ(過剰摂取)で痙攣して死にかけているのを見つけるが、救急車を呼ばず見殺しにした。

考えてみると、本当に鬼畜の所業だ。

ビジネスの邪魔になるのにプラスして、ジェシーが彼女から悪影響を受けてしまうことを懸念したのだろう。

そして、航空管制塔職員であるジェーンの父が精神的なショックでパイロットへの指示を誤り、100名以上が死亡する甚大な航空事故を引き起こした。

この負の連鎖がとても興味深い。

繋がりを辿れば、ウォルターのせいで歴史上稀に見る悲惨な飛行機事故が起きたからだ。

シーズン2のウォルター・ホワイト心理考察・感想

ウォルターは、ジェシーを大切に想う気持ちと、他人であれば平気で見殺しにできる自分に気づく。

ジェシーをジェーンの束縛から守ることで、結果的に飛行機事故を起こした。

そこまでの犠牲を払ってジェシーを更生させたことで、彼を大事に想う気持ちが余計に強待っただろう。今後もウォルターがジェシーに固執するワケが見えてくる。

ジェシーに対して、親友、親、教育者としての気持ちが固まったのだ。

彼の人生だけは更生させたいと、深層心理では思っているのだろう。

ウォルターは、シーズンを追うごとに容赦無い判断を下す一方で、ジェシーには合理的でない処置をとるように。

この辺のウォルターの感情の分離がとても面白い。のちのち、感情がチグハグになる理由がシーズン2で巧妙に描かれているのだ。

シーズン3 ウォルターの家庭ボロボロ、ガスともトラブル

ブレイキング・バッド シーズン3のウォルターホワイトとジェシー

シーズン3のポイントとなるウォルター・ホワイトの出来事は、

  • スカイラーと夫婦関係が崩壊
  • ガスの部下を殺害
  • 助手で化学者のゲイル殺害

妻のスカイラーが、ウォルターの嘘に耐えられず、離婚を申し立てる。ウォルターは家から出て行く羽目に。

さらにスカイラーは、職場のボス・テッドと浮気。

ウォルターは、ニューメキシコ州のドラッグ売買を引き受けるマフィアのボス、ガス・フリングとの取引を正式に開始。

ウォルターはガスがクリーニング工場の地下に用意した麻薬製造ラボの設備を見て感動。家族に金を残せてないこともあり、麻薬製造を請け負うことを決めた。

ジェシーとガスの部下が対立した際に、ガスの部下2名を車で轢き殺した

ラボの同業者、ゲイル・ベティカーがメスの製造工程を把握した際に、トラブルを起こしすぎるウォルターは用済みと判断された。

マイクに殺されそうになるが、ジェシーに命じてゲイルを殺させる

一方でウォルターへの復讐として、義弟のハンクがトゥコの従兄弟であるレオネルとマルコに銃撃され、重傷を負ってしまう。

シーズン3のウォルター・ホワイト心理分析

自分の嘘がバレ、さらに妻・スカイラーの浮気で家庭は崩壊寸前。

メスの製造しかすがるものがなくなってしまった。

シーズン2で自分自身が理解したジェシーへの愛情が、ガスの部下を殺すという行動で示されたというのがシーズン3での一番大きな変化だろう。

シーズン4 ウォルターがマフィアのボス・ガスを爆殺

ブレイキング・バッド シーズン4のウォルターホワイト

シーズン4でポイントとなるウォルター・ホワイトの出来事は、

  • ガスによる狂気の殺人を目の当たりにして恐怖のドン底に
  • 子どもに毒を盛る
  • サラマンカを使ってガスを殺害

ガスが雇ったゲイルを殺したことで、今まで冷静だったガスがブチ切れ。

ウォルターは、自分とジェシーを殺すとドラッグ製造ラインがストップすると交渉し、怒りのおさまらないガスは、2人の目の前で自身の部下の首を掻っ切って殺害。

ウォルターはいつ死ぬかの恐怖の中、メス作りを続ける。

しかし、ジェシーがガスの部下・マイクと共に、ガスのメキシコでのカルテル殺害と逃走を成功させ、ガスはドラックのラボをジェシーに任せようとウォルターを脅して仕事をクビに。

ウォルターはソウルの部下を使い、ジェシーを自身の味方にするため、彼の恋人の子ども・ブロックに毒を盛り、それがガスのせいだということにした。

ガスが、クリーニング工場のラボに迫るハンクの殺害を企てる。ウォルターは身内の安全を考え、老人ホームにいるサラマンカに爆弾を仕掛けてガスを爆殺

シーズン4のウォルター・ホワイト心理考察・感想

ウォルターが裏の世界で生きて行くのに自信がついたのが、シーズン4。

子どもに毒を盛ることでジェシーと仲直りし、脅威だったガスの殺害にも成功。

完全に人の道を外れてしまったが、もう引き返せないと悟っている。

シーズン5 ウォルター・ホワイト自らボスに/ラスト結末

ブレイキング・バッド シーズン5前半のウォルターホワイト

最終シーズン5でポイントとなるウォルターの出来事は、ちょっと多い。。

  • ジェシー、マイクと和解してドラックビジネスを再開
  • 仲間の名前を教えないマイクを射殺
  • ハンクにハイゼンベルクだとバレる
  • ハンクに逮捕されるが、ハンクはジャックに撃たれ死亡
  • ニューハンプシャー州へ逃亡
  • 街に戻りエリオットとグレッチェンを脅す
  • ジャックのグループを殺害
  • ジェシーと別れ、ラストで死亡

ソウルのつてで、害虫駆除をしている民家を使ってメス作りを再開したウォルターとジェシー。マイクとも和解して販売を担当させる。

メチルアミンを列車から盗む計画は大成功したが、助手のトッドが犯行を目撃した子どもを射殺。

ガスの部下でマイクの仲間たちがDEA(警察の麻薬捜査課)に捕まり、彼らが自分に不利な証言をしないかと心配になる。

マイクにDEAの手が迫ると、刑務所にいる仲間の名前を教えないマイクをはずみで射殺。

トッドの叔父ジャックのつてを使って、刑務所にいるガスのかつての部下を10名弱を全員殺害。

ガスの部下リディアと組み、メスの販売網をチェコにまで拡大。

ゲイルからもらったホイットマンの詩集に書いてあるメッセージで、自分の正体が麻薬王ハイゼンベルクだとバレる。決定的な証拠がないため、自分を捕まえたらハンクがハイゼンベルクであるという嘘の映像を流すと脅す。

ジェシーが寝返ったことを察知して、ジャックを使って仕方なく彼の殺害を計画。

今まで稼いだ8000万ドル(約92億円)を砂漠に隠すが、ハンクに追跡され逮捕される。そこへジャックが到着。ウォルターは止めるが、ハンクは射殺された。

ジャックたちはウォルターの金をほとんど没収。彼らに連れていかれるジェシーに「ジェーンを見殺しにした」と告白。

家族は怯え逃亡についてこようとしない。ウォルターはソウルのつてを使い、1人孤独にニューハンプシャー州の山小屋へ逃亡。

ニューハンプシャーの酒場で、エリオットとグレッチェンのインタビューを見て怒り、ニューメキシコ州に戻る。彼らを殺すと脅してフリンやホリーに金が渡るようにする。

リシンでリディアを殺害。

ジェシーとともにトッドやジャックを殺害。自身も銃弾を受け、最後は死亡。

(この後のジェシーの後日譚を描いたエルカミーノ ブレイキング・バッド THE MOVIEの解説・考察記事は←こちら)

シーズン5のウォルター・ホワイト心理考察・解説

ブレイキング・バッド 最終話のウォルターホワイト

狡猾に証拠人を殺害していくが、仲の良かった義弟のハンクが敵に回り、さらに殺害され。自分の稼いだ金もジャックに没収される。

全てを失ってボロボロ状態。

ニューハンプシャーで自首しようと思っていた矢先、彼の復讐のモチベーションになったのは、エリオットとグレッチェン夫妻というのが興味深い。

結局は、20年以上前の個人的な恨みがウォルターの心の底でずっと燻っていたということだろう。

つまりは家族への愛でなく、自尊心の高さや妬みといった彼自身の業が負のスパイラルを生んでいたのである。

そしてジェシーの解放と共に、彼は人生のもう一つの役割であるジェシーの独り立ちも終えたと感じ、悔いることなく死亡する。

心の奥で、人間としてジェシーを成長させてあげられたという微かな希望は残っていたのかもしれない。

海外ドラマ史上最も成功したウォルター・ホワイトという人物についての結論

『ブレイキング・バッド 』の主人公ウォルター・ホワイトは、潜在的なソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)だと結論付けられるだろう。

ただ、ドラマのキャラクターとして優れていたポイントは、相棒ジェシーや息子フリンへの愛情をしっかり描いたこと。本当はいいやつかも!という隠れみのを、常にまとっていたのだ。

ウォルターは自分自身にも嘘をつき、視聴者に潜在的な心理を隠すことができた。同情ができる危険人物(ソシオパス)といえるだろう。

行動だけをみれば、危険とみなすと相手を殺そうとするなど、明らかに普通の人とは思考違うのだが、父親っぽい表情により、そう単純に見えない。

視聴者は同情してしまうのだ。

さらにウォルター・ホワイトの本質は、夢や名誉から逃げ出したが、それを認められない卑怯者。どこかで見たことがないだろうか?

そう、それはあなた自身である。

あなたがウォルターと完全に重なる訳ではないが、過去を振り返ってみて、夢や大きな目標から逃げ出したりしたことがある、という人は多いのではないか。

視聴者は心のどこかで、ウォルターに凄まじいほどの共感を抱いているのだ。

キャラの特徴をまとめると、

  • ソシオパスを、敢えてソシオパスっぽく描かなかったキャラクター
  • 同情できる境遇のソシオパス
  • 誰もが共感できる、嫉妬心を抱える人物

これがドラマ『ブレイキング・バッド』のウォルター・ホワイトなのである。

結果、彼の心情は2重構造となり、行動自体が常に予想外!サスペンスチックで真新しい驚きを伴うものとなった。

ウォルターにとってのジェシーの存在意義を解説

ウォルター・ホワイトの特徴や性格以上に大事なのが、ウォルターにとってジェシーはどんな存在だったのか?という疑問に対する答えだろう。

  1. 親友
  2. 子ども
  3. ビジネスパートナー
  4. 教え子

主にこの4つの関係性があったわけだが、1番見逃しがちで重要なのが、ウォルターにとって、ジェシーは教え子であったということではないだろうか?

ウォルターは、化学教師としては生徒たちに尊敬されていないし、教育熱心かと言われればわからない。

ただ、本意で教師をやっていたわけではなくても、何年もやっていれば教育に対する愛も少しは芽生えるだろう。

教育についても、貢献したいという気持ちはあったはずだ。

そしてウォルターが唯一、納得のいく教育ができたのがジェシーだったのではないだろうか。

ジェシーは子どもっぽく衝動的で、短絡思考で、しかしどこか愛おしい。

ジェシーは、現実社会で多くの大人が救いたくても救えなかった若者の代表なのだ。

ウォルターは、最後には彼を救えたと言ってよいだろう。

自分や周囲の人間や、おびただしい人間の命を犠牲にしたが、ジェシーの最後の叫びを聞くと、彼は変われたのだと思わずにはいられない。

化学者としての功績を奪われたウォルター。彼がその後、教育者として生きた彼の唯一の功績がジェシー。

つまりウォルターにとって、ジェシーは化学の後に残った唯一の光なのだ。

なぜウォルターが危険を冒してまでジェシーをかばったのかがわかるだろう。

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