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Smells Like Maniac 第8話 吊り下げられた間の日(Limbo)
〜クリス編〜
どこの国のいつの時代だろう。のどかな雰囲気の乾いた町だ。景色は白黒。ベンチで一生懸命絵を描いていた少年がいた。クリスはその少年の隣に座る。少年からスケッチブックと鉛筆をとりあげ、奇妙なメロディの鼻唄を歌いながら、得意げにホワイトブロウ・ホテルの外観を描きあげた。
少年が目を覚ました。さっきの映像はこの少年の夢だったのだ。クリスの体は消え意識だけが少年と同化していた。
少年は起きてすぐ、忘れないうちにホワイトブロウをスケッチブックに描く。家を飛び出して、街を歩いていた髭の男に得意げに見せた。中東の言葉で会話している。
「何じゃこれは、ケーキを切った絵か」
「ケーキじゃないよ。人が泊まるホテルだよ」
「ほお、ホテルか。どんなホテルなんだ」
「とっても怖いことが起こるホテルだよ」
「なぜそんなこと言うんだ?」
「昨日見た夢で、クリスっていうおじさんが教えてくれたんだ。笑ながら言ってたよ」
髭の男は昼寝から目を覚ました。クリスの意識もその男に同化する。
その男は建築家だった。夢で少年に見せてもらった建物のデザインを気に入ったようだ。
クリスは痙攣するようにして飛び起きた。シャーリーは隣でぐっすり寝ている。狂いそうな奇妙な夢だった。ベットのカバーが汗でじっとり濡れている。
〜シャーリー編〜
クリスの部屋で目覚めた。もう11時近い。こんなに深く眠れたのはいつ以来だろう。クリスはまだ隣で寝ている。彼の肩に触れた。温かい。仕事やその他の悩みはもうどうでもよくなっていた。このホワイトブロウの朝にいつまでも浸っていたい。しばらく寝転んで外の景色を眺めたあと、シャーリーは起きて服を着た。
〜クリス編〜
午後からシャーリーやみんなと酒を飲みながら1階のラウンジで喋ったり、たまにひとりで館内をぶらついたりしていると、ケイトとすれ違うことが多かった。彼女も落ち着いていられないのか。
クリスはソフィアの死体をもう一度見たい気持ちをなんとか抑えていた。観たとしても期待しすぎれば、最初に見たときの感動に達することは不可能だ。そう自分に言い聞かせ、納得させた。
1階のラウンジではロバートやユーシュエンが、葉巻を吸っていた。カルロが葉巻の楽しみ方について講釈を垂れている。ユーシュエンは喫煙者ではないはずだが、興味が湧いたのだろう。咳き込んでいるユーシュエンを見てロバートが笑っている。
イドリスはアンと話し込んでいるようだ。彼も葉巻を口に咥えていた。イドリスはアンとの話を終えたようで、クリスに手招きしたので、彼の正面に座った。「初めて吸ってみたよ」イドリスはそう言いながら、さらっと自分が弁護士であると話し、証言を時系列で細かく組み立てようといった。横からユーシュエンがイドリスにポーカーのブラフ(ハッタリ)で勝った話をしてきた。イドリスも怒った顔をしていたが、口元は緩んでいる。
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