知的障害じゃない?映画『母なる証明』ネタバレ考察!ラスト結末,犯人トジュン解説,ジョンパルが切ないあらすじ伏線感想,キャスト評価

  • 2024年3月24日

ポン・ジュノ監督の映画【母なる証明(마더)】を観賞。

母子の絆が垣間見える完成度の高いサスペンスである一方、人間の持つ深い闇を描き出していた傑作だった。

この記事では、

  • ストーリーネタバレあらすじ
  • 感想やテーマ
  • トジュンは知的障害か?
  • 農薬・石の意味

などを徹底考察・解説しています!

母と知的障害の息子の禁断の関係がヤバ過ぎる!!

トジュンは知的障害ではない?ネタバレ考察!

母なる証明のトジュン

※映画『真実の行方』のネタバレを少し含みます。

母なる証明の考察記事でよく見かけるのが、トジュンは知的障害ではなく高IQの殺人者だ!というもの。

結論を述べると、これは不自然な解釈だと思う。

なぜなら、知的障害でなく通常思考ができる場合、わざわざ自分で罪を認めて拇印を押すことは絶対しないからだ。

殺人を犯して、空き家の屋上にワザワザ死体を引っ張り上げる説明もつかなくなるだろう。

トジュンが高IQの殺人者というのは、さすがに飛躍しすぎだろう。

彼が知的障害であったことは間違いない。

ただ、そういうシナリオだったらと想像するのは全然アリだけど。

ちなみに、“トジュンが実は知的障害ではなかった”というタイプオチの映画がリチャード・ギアとエドワード・ノートン主演の映画『真実の行方』。

トジュンの知的障害の原因は農薬

トジュンがなぜ知的障害になったのか。

生まれつきという可能性もあるが、もしかすると、農薬を飲まされたのが原因で知的障害になってしまったのではないか。

そして衝動的に殺人事件を犯した。負の輪廻といえるだろう。

母親がトジュンを溺愛しているのも、自身の行為で息子が障害を持ってしまったという負い目からの感情からかもしれない。

母親が必死にトジュンの罪をかばうことでさえ、過去の心中という罪の意識を覆い隠すためだともいえる。

ドス黒い罪の意識を抱えた母親は、トジュンを溺愛することでしか心身のバランスを保てないのだ。

トジュンと怪物グエムルはイコール!?

農薬につながる話だが、同じくポンジュノ監督の映画『グエムル』では、薬品が下水に流れ、怪物が誕生する。

この映画では、米軍の圧力で漢江に流した薬品ホルムアルデヒドで怪物ができるのだが、貧困で母親が子どもに毒を飲ませてのちに殺人鬼になってしまう『母なる証明』と関係性が似ている

ポンジュノ監督にとって、社会の悪い部分が集積したものの象徴が、トジュンでありグエムルなのだろう。

アジョンの生活から見える貧困の負の連鎖

母なる証明で起きた一連の事件は、貧困という社会問題が根本にあると言える。

アジョンがなぜ売春をしているか?理由は、認知症で酒飲みの祖母を養うためだ。

アジョンがマッコリ(酒)について語るシーンがあるので、好きで売春していたのではないとわかる。

貧困はアジョンが悪いわけではない、しかし自分の心をボロボロにしながら援助交際を続け、殺人事件の被害者となってしまった。

トジュンについても、農薬を飲ませられたせいで知能障害になったとしたら、親世代から負の遺産を受け継いで今回の事件を起こしたことになる。

さらに言えば、親世代が悪いわけでもない。社会の貧困のせいなのだ。

母なる証明は、だれも悪くないにも関わらず、貧困が原因で事件に巻き込まれて命を落とす人の存在を教えてくれている。

映画『母なる証明』石の意味を解説

アジョンがトジュンに向かって投げた石の意味はなんだろうか?

石については、同じくポンジュノ監督の『パラサイト半地下の家族』でも、メタファーとして使われている。

解釈はいくつかあるが、重い石は上の世代から背負わされた業(ごう)のメタファーだと考えるのが自然ではないか。つまり石とは“カルマ”なのだ。

そう考えると、アジョンが祖母から背負わされた業(ごう)を石に見立ててトジュンに投げつけたとなり、筋が通る。そして石の意味は映画パラサイトとも通底する。

母なる証明のメッセージ考察/母子の無意識の罪と愛(ネタバレ)

母なる証明のメッセージは一体なんだったのか。

結論を言うと、母子の無意識の罪と愛がテーマだったのだと思う。

母親はトジュンに農薬を飲ませた罪の記憶に蓋をした。そしてドジュンも殺人の記憶や母親の殺人を忘却している。

母子はお互いに罪人だと気づきなら、その出来事にフタをした。大切に想い合いながらも、ドス黒い感情を覆い隠すためにこれからも相互依存していくのだ。

愛が罪を覆い隠しているのか。

罪が愛を呼び覚ましたのか。

母なる証明は、上質なサスペンス映画でありながら、禁断のメッセージが込められた映画なのだ。

この映画と対照的に、ドス黒い感情になすすべもなかったのがソン・ガンホ主演の『殺人の追憶』。刑事たちが追っていたのはドジュンなのかもしれない。

映画『母なる証明』ネタバレあらすじ解説

あらすじ1:子煩悩

※母親は、トジュンの母のこと

草原で踊る母親。

母親(キム・ヘジャ)は、知的障害の息子トジュン(ウォンビン)を溺愛しており、いつも目を離さない。漢方用の草を切る作業中も、道向かいにいる息子が気になり、指を怪我してしまった。次の瞬間、トジュンは黒のベンツに当て逃げされてしまう。

ダメージはなかったが、トジュンはチンピラの友だちジンテ(チン・グ)に復讐しようと言われゴルフ場まで連れ出され、ベンツに乗っていた大学教授とその取り巻きと喧嘩をしてしまう。

警察に捕まった一行は、示談の方向で話を進めていたが、ベンツのサイドミラーを壊された分は弁償しなければならなくなった。壊したのはジンテだが、彼は何も覚えていないトジュンのせいにした。

ミラーはトジュンの母親が弁償することに。

あらすじ2:トジュンが殺人事件で捕まる

トジュンはスナックで飲み明かし、帰道の石階段でアジョンという女子高生に声をかける。ドジュンに気づいたアジョンは路地に入り、大きな石を投げてきた。トジュンはびっくりして、家に帰って母の側で眠った。

翌日、空き家の屋上の端に布団のように置かれた、アジョンの死体が発見された。

現場近くからトジュンが持っていたゴルフボールが発見され、容疑者となり連行された。

トジュンは知的障害があるため、身に覚えがないにも関わらず、殺人を認める拇印を押してしまう。

母親は知り合いのジェムン刑事(ユン・ジェムン)に、トジュンが犯人のワケがないと訴えたが、聞き入れられない。母親はトジュンと面会しながら、事件の前後について思い出したことを教えるよう言った。

トジュンは何度目かの面会で突然、母親が自分が5歳の頃に農薬を飲ませて殺そうとしたことを思い出して語った。母親は叫びながら、生活が苦しかったと弁解。

雇った弁護士は、トジュンが服役する代わりに4年間精神病院に入院させる作戦を提案。母親はそれを拒否する。

あらすじ3:事件の真相は

母親はジンテの家に行くと、血のついたゴルフクラブを発見した。アジョン殺害の証拠として警察に持ち出すが、血ではなく口紅だったと判明。ジンテは容疑者にされたことに起こり母親に金をせびるが、トジュンのことは友だちだと思っていると語る。

母親は殺されたアジョンの周囲を調べると、売春で多数の異性関係を持っていたことを知った。ジンテに協力してもらい、アジョンと関係があった学生を殴って問い詰めると、アジョンの携帯に今ままで関係のあった男性の写真が全て入っていると語る。

母親はアジョンの携帯に真犯人が写っていると確信。

あらすじ4:母と子の決断

アジョンの家には認知症で酒飲みの祖母しかいなかった。

母親はアジョンの祖母に金を渡し、米びつに隠してあったアジョンの携帯をゲット。

面会でトジュンは、アジョンを見た近くで男の姿を目撃したことを思い出したと言う。

母親が携帯の写真を見せていくと、トジュンがこの人だと言った。顔見知りの廃品回収業者の男性だった。

母親は町外れの廃品回収業者の男性を訪ね、タダで針を刺すボランティアで、心のシコリがある人には太もものツボへ針を刺すのがよいと話す。

するとその男性は、最近衝撃的なものを見たと言う。事件現場の空き家でアジョンを待っていたら、青年(トジュン)が大きな石を投げ返し、アジョンを殺したのを目撃したと語った。

母親はトジュンが犯人だったと知ってショックで錯乱。真実を知るその男を撲殺。家を焼いて証拠を隠滅した。

母なる証明ラストネタバレ

母親の元にジェムン刑事がやってきた。祈祷院から脱走したジョンパルという男性がアジョンの血のついたTシャツを持っていたので、彼が真犯人だと告げられる。

母親はアジョンがよく鼻血を出すと知っていながら、息子をかばうためそのことを警察には言わなかった。

母親がジョンパルに面会に行くと、彼も知的障害だった。受け答えがしっかりできず、息子トジュンの代わりに真犯人となってしまったのだ。

母なる証明のジョンパル

トジュンは釈放され、以前と同じ生活を続ける。

トジュンは廃品回収業者の焼け跡で、母親が灸で使っている針箱を発見したと言ってそれを手渡す。

母親は気を動転させながらも、地元商店街の人が企画したツアーのバスに乗り、心の嫌な記憶を取り除く太もものツボに針を刺して、踊り出した。

感想・評価まとめ

映画『母なる証明』は、殺人事件のサスペンスで母子の絆が浮かび上がると同時に、その裏に罪の意識を覆い隠したい人間の業とでもいうべきドス黒さが垣間見える映画だった。

そして根底には貧困があると伝えている。

ポン・ジュノ監督の演出と、バランス感覚に脱帽だ。

母なる証明のような、物議を醸す衝撃映画が今後もどんどん作られるとうれしい!

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