映画『あんのこと』
考察:実話と映画の内容比較、モデルのハナさんに関する新聞記事
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
視聴後の感想・評価(ネタバレあり)
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
※以下、『あんのこと』のストーリーネタバレありなので注意してください!
『あんのこと』実話のハナ:新聞記事の内容
モデルのハナに関する事実
映画『あんのこと』は25歳で自ら命を絶ってしまった女性・ハナ(仮名)さんについての朝日新聞の記事が元になっている。
幼い頃から母親のDV。小学校3年で不登校になり、12歳の頃には売春をし、14歳で周囲のすすめで覚醒剤などの薬物に手を出した彼女。21歳の頃に逮捕され元刑事で薬物中毒者の更生の活動をしている元刑事に救われ、更生の方向に進んだという。
夜間中学に通い、高卒認定の取得と介護福祉士を目指して必死に勉強をしていたそう。照れ屋だったらしい。
しかしコロナで表の人間関係が断ち切られる。その後、母親に飼い猫を殺されて更生をサポートしていた刑事(多々羅に当たる)に電話したときは呂律が回っておらず、また違法薬物(コカイン)に手を出した可能性があると考えられた。尿検査も陽性。その後、避難ホテルのそばで倒れて死亡していたようだ。
殺されたとか、死ぬように仕向けた犯人がいるとかではなく、ハナさんは自ら命を絶ったと見られている。状況からするとDV被害者の避難ホテルの非常階段から飛び降りたと考えられる。
生活保護の受給と薬物更生施設への入所が決まっていたが、入所のほうはハナさん自身で拒否したもよう。
入江悠監督はハナさんについて徹底的に取材して本作を作りあげたという。
さらに、ハナを救った元刑事が特別公務員暴行陵虐容疑(公務員の暴力や性暴力の罪)で逮捕されたのも事実だ。相談にのった女性を盗撮した疑いで捕まったらしい。
映画の脚色部分
映画のフィクション(創作)部分は、杏と隼人が一緒に暮らすパート。ハナさんが幼児を育てたなどの話はない。
また映画では杏は多々羅と一緒に更生の道へ進んでわりと早い時期から避難アパートで暮らしていたが、ハナさんは母親と一緒に暮らしていたらしく、母からの暴力から逃げるために避難アパートに移ったあとで亡くなってしまったようだ。
あんのこと:考察
3人の“止められなかった”人間の物語
本作は3人の“止められなかった”人間の物語だと感じた。
- 杏は薬物を完全に断ち切ることはできなかった
- 多々羅は更生中の女性に手を出すことを止められなかった
- そして記者の桐野は記事を書くことを止められなかった
挿入された2本の電車と高架道路がクロスするシーン。そこから3人の運命はすれ違い始める。そして、その人間関係に救われた杏は再び絶望の渦に突き落とされた。
最後に桐野が多々羅に面会して語った「俺が記事を書かなかったらサルベージの活動も終了せず、杏さんを救えましたか?」という言葉。そこに大きな問題が潜んでいると思う。
桐野に関しては罪があるわけではないし、多々羅の罪を告発もするべきだっただろう。ただ、残された杏になんらかの形でサポートする必要があったかもしれない。そんな微妙なジレンマを孕んだ作品だった。
多々羅の心理と薬物中毒
多々羅は薬物患者たちの更生に尽力するいっぽう、救済の会に入った女性に手を出す卑劣漢でもあった。どちらが本当の多々羅なのだろう。おそらくはどちらも本当の多々羅なのだと思う。
当初は更生させるためだけが目的だったものが、周囲から祭り上げられるうちに勘違いし、ちょっとならセク○ラしてもいいか、1回ならホテルに行っても…とエスカレートしていき、二面性を肯定してしまったのではないだろうか。
性加害をやめられない多々羅は、ある面で薬物中毒から抜け出せない患者たちと重なる。中毒者が中毒者を更生させようとしていたわけだ。
深淵をのぞいてのぞき返されてしまった男、それが多々羅なのだと考える。
映画『あんのこと』ネタバレ・ラスト結末の解説
小さい頃から母に暴力を受けて育ち、12歳で母の紹介で売春をし、14歳で違法薬物を注射し、依存するようになった香川杏(かがわあん/河合優実)。
21歳のときに売春相手と薬をやり、相手がオーバードーズ状態になったことで捕まる。
取り調べで、刑事の多々羅(佐藤二朗)はいきなりヨガをやり出した。そして薬をやめる気があるなら助けになる!と言った。
多々羅は杏を外に連れ出しラーメンを食べさせる。そして自らが主催する薬物中毒者たちの救済の会・サルベージに杏を連れて行った。元中毒者たちが自分たちが薬に溺れた経緯や、どうやって抜け出したかを語る会だ。
サルベージには記者の桐野達樹(稲垣吾郎)も顔を出していた。多々羅の活動や社会復帰の取材をしているようだ。杏は多々羅に言われて手帳を買い、シャブを打たなかった日に毎日○をつけていく。
杏はゴミだらけの家に帰ると母・春海(河井青葉)に暴力をふるわれ、金を出せと言われる。家には祖母の恵美子(広岡由里子)もいる。恵美子は杏に優しかったし、杏も恵美子を好きだった。しかし恵美子は高齢のためか、春海を止めてはくれなかった。
杏はこの生活から抜け出せないと絶望し、雨の中外へ飛び出す。連絡を受けた多々羅がやってきて杏を抱きしめ、一緒に涙を流した。
杏は多々羅の紹介で、DV被害者のための避難アパートで一人暮らしを始める。
杏は多々羅に「将来は祖母を介護したいから介護施設で働きたい」と相談する。桐野の紹介で職歴がない杏を働かせてくれる施設が見つかった。
杏はその職場で真面目に働く。母がやってきて暴れたが、施設長は辞めなくていいと言った。
人の紹介で夜間中学にも通い始めた。在日の外国人たちに混じって漢字や算数を勉強する。
そんな中、桐野はサルベージに通っていた雅(みやび)という女性から、「多々羅から性被害にあっていた」と告白される。
桐野は他の女性数名からも証言を取り、多々羅に本当かどうか質問した。多々羅はノーコメントとだけ言った。杏にも手を出したのか聞くが、多々羅は何も言わなかった。
桐野の記事が週刊誌に掲載される。桐野は杏のところに行って記事を見せる。桐野は「多々羅は辞表を出した。逮捕されるだろう」と話す。杏はショックを受け、桐野のもとから去った。
コロナになり、杏は勤めていた施設から「行政の指導によって働く人数を減らすために申し訳ないが非正規は当分お休みしてもらう」と言った。さらに夜間中学もなくなった。
杏はアパートで孤独にさいなまれて絶望する。そんなときアパートに住んでいる紗良(早見あかり)という女性が、「男とトラブったから息子の隼人を預かって!」といって1〜2歳の男の子を置いて逃げていく。
杏は仕方なく隼人の世話を始めた。食事を作ったりオムツをかえたりあやしたり一緒に遊んでいるうちに、隼人がかけがえのない存在になっていった。
そんな中、母・春海がアパートを探し当ててやってきて「おばあちゃんがコロナになって大変だ」と泣きつく。杏は仕方なく家に戻った。すると祖母はけろりとしている。春海は嘘をついていたのだ。
春海は隼人を奪い。返して欲しければ体を売って金を稼いでこいという。杏はその通りに体を売って5万つくった。しかし翌日実家に戻ると隼人がいない。春海は「隼人がうるさいから」と児童相談所に引き取ってもらっていた。
杏は包丁を取るが、親を刺せるのか?と言われて包丁を落とす。
絶望した杏は、アパートに戻ってシャブを打ってしまう。ずっとシャブを打っていない◯マルの記録が今日で途絶えてしまった。手帳を燃やすが、隼人のアレルギーのことを書いたページだけは残していた。それは燃やせなかった。杏はそのページと一緒に窓から飛び降りた。そして死亡。
現場にやってきた桐野は膝から崩れ落ちる。そして留置所の多々羅に会いに行き、俺が記事を書かなければサルベージの活動も続いて杏を救えたか尋ねる。
別のとき、多々羅は杏が死んだのは○の記録が途絶えた自責の念だと話し、涙を流した。
隼人を児童相談所から引き取った紗良は、あんのおかげで救われたと語る。
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