映画『あんのこと』ネタバレラスト解説,ハナの実話と比較考察,3人の絶望

  • 2024年9月16日

映画『あんのこと』

シネマグ
映画を観て久しぶりに絶望した。傑作だけど劇薬!実話がもとなのが苦しすぎる

考察:どこまでが実話?

物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説

視聴後の感想・評価(ネタバレあり)

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)

ネタバレ少なめの感想はこちら

※以下、『あんのこと』のストーリーネタバレありなので注意してください!

映画『あんのこと』実話のハナ

映画『あんのこと』は25歳で自ら命を絶ってしまった女性・ハナ(仮名)さんについての朝日新聞の記事が元になっている。

幼い頃から母親のDV。小学校3年で不登校になり、12歳の頃には売春をし、14歳で周囲のすすめで覚醒剤などの薬物に手を出した彼女。21歳の頃に逮捕され元刑事で薬物中毒者の更生の活動をしている元刑事に救われ、更生の方向に進んだという。

夜間中学に通い、必死に勉強をしていたそうだが、コロナで表の人間関係が断ち切られ、また薬物に手を出し、DV被害者の避難ホテルから飛び降りてしまったという非常にいたましい事件だ。

さらに、ハナを救った元刑事が特別公務員暴行陵虐容疑(公務員の暴力や性暴力の罪)で逮捕されたのも事実だ。

映画のフィクション(創作)部分は、杏と隼人が一緒に暮らすパート。逆にいうとそれ以外は実際の話を元にしているのだから切なすぎる。

考察

3人の“止められなかった”人間の物語

本作3人の“止められなかった”人間の物語だと感じた。

  1. 杏は薬物を完全に断ち切ることはできなかった
  2. 多々羅は更生中の女性に手を出すことを止められなかった
  3. そして記者の桐野は記事を書くことを止められなかった

挿入された2本の電車と高架道路がクロスするシーン。そこから3人の運命はすれ違い始めた。そしてその人間関係に救われた杏は再び絶望の渦に突き落とされた。

最後に桐野が多々羅に面会して語った「俺が記事を書かなかったらサルベージの活動も終了せず、杏さんを救えましたか?」という言葉。そこに大きな問題が潜んでいると思う。

桐野に関しては罪があるわけではないが、去った杏を追ってなんらかの形でサポートする必要があったかもしれない。そんな微妙なジレンマを孕んだ作品だった。

多々羅の心理と薬物中毒

多々羅は薬物患者たちの更生に尽力するいっぽう、救済の会に入った女性に手を出す卑劣漢でもあった。どちらが本当の多々羅なのだろう。おそらくはどちらも本当の多々羅なのだと思う。

当初は更生させるためだけが目的だったものが、周囲から祭り上げられるうちに勘違いし、ちょっとならセク○ラしてもいいか、1回ならホテルに行っても…とエスカレートしていき、二面性を肯定してしまったのではないだろうか。

多々羅が性加害をやめられなかったことは、ある面で薬物中毒から抜け出せない患者たちと重なる。中毒者が中毒者を更生させようとしていたわけだ。

深淵をのぞいてのぞき返されてしまった男、それが多々羅なのだと考える。

映画『あんのこと』ネタバレ・ラスト結末の解説

小さい頃から母に暴力を受けて育ち、12歳で母の紹介で売春をし、14歳で違法薬物を注射し、依存するようになった香川杏(河合優実)。

21歳のときに売春相手と薬をやり、相手がオーバードーズ状態になったことで捕まる。

取り調べで、刑事の多々羅(佐藤二朗)はいきなりヨガをやり出した。そして薬をやめる気があるなら助けになると話した。

多々羅は杏を外に連れ出しラーメンを食べさせる。そして自らが主催する薬物中毒者たちの救済の会・サルベージに杏を連れて行った。元中毒者たちが自分たちが薬に溺れた経緯や、どうやって抜け出したかを語る。

サルベージには記者の桐野達樹(稲垣吾郎)も顔を出していた。活動や社会復帰の取材をしているようだ。杏は手帳を買い、シャブを打たなかった日に毎日○をつけていく。

杏はゴミだらけの家に帰るが母・春海(河井青葉)に暴力をふるわれ、金を出せと言われる。家には祖母の恵美子(広岡由里子)もいる。恵美子は杏に優しかったし、杏も恵美子を好きだった。しかし恵美子は高齢のためか、春海を止めてはくれなかった。

杏はこの生活から抜け出せないと絶望し、雨の中外へ飛び出す。連絡を受けた多々羅が杏を抱きしめ、一緒に涙を流した。

杏は多々羅の紹介で、DV被害者のための避難アパートで一人暮らしを始める。

杏は多々羅に将来は祖母を介護したいから介護施設で働きたいと相談する。桐野の紹介でなんの職歴もない杏を働かせてくれる施設が見つかった。

杏はその職場で真面目に働く。母がやってきて暴れたが、施設長は辞めなくていいと言った。

人の紹介で夜間中学にも通い始めた。在日の外国人たちに混じって漢字や算数を勉強する。

そんな中、桐野はサルベージに通っていた雅(みやび)という女性から、多々羅から性被害にあっていたと告白される。

桐野は他の女性数名からも証言を取り、多々羅に本当かどうか質問した。多々羅はノーコメントとだけ言った。杏にも手を出したのか聞くが、何も言わなかった。

桐野の記事が週刊誌に掲載される。桐野は杏のところに行って記事を見せ、多々羅は辞表を出した。逮捕されるだろうと話す。杏はショックを受け、桐野のもとから去った。

コロナになり、杏は勤めていた施設から行政の指導によって働く人数を減らすために申し訳ないが非正規は当分お休みしてもらうと言った。さらに夜間中学もなくなった。

杏はアパートで絶望する。翌日、アパートに住んでいる紗良(早見あかり)という女性が、男とトラブったから隼人を預かって!といって1〜2歳の男の子を置いて逃げていく。

杏は仕方なく隼人の世話を始めた。食事を作ったりオムツをかえたりあやしたり一緒に遊んでいるうちに、隼人がかけがえのない存在になっていった。

そんな中、母・春海がアパートを探し当ててやってきて「おばあちゃんがコロナになって大変だ」と泣きつく。杏は仕方なく家に戻った。すると祖母はけろりとしている。春海は隼人を奪い。返して欲しければ体を売って金を稼いでこいという。杏はその通りにした。しかし翌日戻ると、春海は隼人がうるさいからと児童相談所に引き取ってもらっていた。

杏は包丁を取るが、親を刺せるのか?と言われて包丁を落とす。

絶望した杏は、アパートに戻ってシャブを打ってしまう。ずっとシャブを打っていない◯の記録が今日で途絶えてしまった。手帳を燃やすが、隼人のアレルギーのことを書いたページだけ破った。それは燃やせなかった。杏はそのページと一緒に窓から飛び降りた。そして死亡。

現場にやってきた桐野は膝から崩れ落ちる。そして留置所の多々羅に会いに行き、俺が記事を書かなければサルベージの活動も続いて杏を救えたか尋ねる。

別のとき、多々羅は杏が死んだのは○の記録が途絶えた自責の念だと話し、涙を流した。

映画『あんのこと』ネタバレ感想・評価

映画『あんのこと』の評価は90点。

河合優実と佐藤二朗の演技が凄すぎて冒頭からずっと引き込まれていた。結末までを容赦無く実話に沿わせて作ったところがすごいと思ったが、見ている私も絶望に突き落とされた。

リアル過ぎて社会派という畏まったものではなく、人間が希望と絶望にサンドイッチされるとどうなるかというのがヒシヒシと伝わってきて、本当に寝込みそうになった。

河合優実さんは『PLAN 75』くらいから好きだが、次世代スターだなこれは。撮り方もあるんだろうけど、絶望と希望のどっちつかずの虚無の表情が心に重くのしかかってきてホラー映画よりもよほど怖い。

関連記事

映画『PLAN 75』(プラン75)は、75歳以上の老人が望めば安楽死できる制度が可決された社会を描く問題作! 免許どころか命の返納制度。 倫理・道徳的な問いかけに加え、人の命や尊厳について深く考えさせられます。 […]

映画『PLAN 75』

映画『あんのこと』作品情報

公開:2024年6月7日
制作国:日本
上映時間:1時間53分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督・脚本:入江悠
原作:実話が元
音楽:安川午朗

ここまで読んでいただきありがとうございます。『あんのこと』レビュー終わり!

2024年公開の邦画・関連記事

関連記事

映画『スオミの話をしよう』 シネマグ ぶっ飛んだこの映画は結局何が言いたかったのか名作映画『サンセット大通り』考察してみました。 徹底考察:『サンセット大通り』からの解釈、ヘルシンキの意味、テーマは日本社会の縮[…]

映画『スオミの話をしよう』
関連記事

邦画『夏目アラタの結婚』 シネマグ 猟奇サスペンスかと思いきや、児童虐待の闇を深ぼる異色のラブストーリー。 ストーリー考察:可哀想な目で激怒する理由とネグレクト、エンドロールや×印の意味 物語ネタバレあら[…]

映画『夏目アラタの結婚』